〜衣替え〜 小説
毎年、この季節になると思い出す
これは、新生活が始まって、社会人一年目に記念で貴方に買って貰ったね
このミニスカートのスーツは、こんな歳になるともう着れないけれど
衣替えの季節、いつもは開けないクローゼットを開けると、あの頃の幸せな思い出が温かさと共に蘇ってくる
〜始まりはいつも〜 小説
始まりはいつも私だった
告白したのも私
会話を始めるのも
デートの計画を建てるのも
いつも私
でも、終わりはいつもきみだった
告白を好きでもないくせにOKして、片思いを終わらせた
私のメッセージに返信もせずに♡をつけて終わらせる
デートの別れ際、なんの寂しげも無く、むしろ嬉しそうに帰っていく
きみが初めてなにかを始めたのは、別れ話のときだった
〜すれ違い〜 小説
きみのことは、もうすっかり忘れていたつもりだった
あの交差点で、すれ違うまでは
きみは、私と一緒に居たときとは、まるで別人のように変わってしまったね
けれど、きみが正解なのかもしれない
気づいていなかっただけで、時計の針がまだ凍てついたんだ
きみと別れてから、ずっと
きみは、その凍てついた針を溶かしてくれる相手と出会ったんだね
ねぇ、誰か
溶かしてよ
私は、まだ…また
1人なんだ
〜秋晴れ〜 小説
楓の木の下、きみを待つ
楓の葉の情熱的な赤色は、澄んだ空とは対照的だ
きみは私よりもずっと早くこの空に溶け込んで、二度と還らない
けれど私は待つ
きみと出会った楓の木の下で
きみは透明だから、何処にいるかわかんないや
でも、きっとそばにいると信じている
「また、来るね」
私は、楓の木に手を掛けて言った
返事をするように、楓の葉が1枚ひらりと落ちる
一瞬だけ、きみの顔が見えた気がした
私は秋が好きだ
きみともう一度会える、唯一の季節だから
〜忘れたくても、忘れられない〜 小説
花が落ち芽吹いてくる葉の香り
きみが姿を消したのは、この季節だった
夏の始まり、春の終わり
花粉症が無くなっても、心に残るむず痒さに腹が立つ
きみは、今どこで何をしているのだろうか
今も、あの頃の「きみ」のままだろうか
もしかしたら、この街に戻って来ているのではないだろうか
もう、私の事など頭の片隅にも置いていないのだろうか
そんな考えが頭を巡る度、私はきみへの思いを抑えることができなくなっていたんだ
でも、もう大丈夫
きみが街から姿を消して、もう何年も経ったけれど、やっと見つけた
きみはもうずっと…これからも私の近くにいるから
そのはずだから
だって、死体がひとりでに動くはずが無いでしょう?
葉の香りや、夏の始まりの不愉快な暑さを覆い隠すように
錆び付いた血の香りが鼻を掠めている
きみを殺めてしまった罪悪感
きみが「きみ」でなくただの物になった悲壮感
もうきみが何処にも行かないという高揚感
体は汗をかくほどに暑いはずなのに、頭はツンと冷えきっていて、酷く冷静だった
包丁を持ってきみを壁に追い詰めたときの悲鳴
どくどくと流れる真っ赤な血
そのときの感情も、情景も香りも
忘れたくても、忘れられない
いや…忘れたくもない
ダイスキな君と過した、ダイジなジカンだから