逆光で影の落ちた顔は、表情が全くわからない。わかるのは、相手がじいとこちらを見据えている事だけだった。
赤い日が、炎のように世界を照らす。それはいっそ終末のようで、安っぽい惨劇のようにさえ思えた。
「どうかしたのか」
気遣いの言葉も、どこか薄ら寒い。何と言うべきか、口を僅かに開いて、それから、小さく首を振った。
「そうか」
帰ろう。そう言われて、足が竦む。
焼けついた影ばかり、どこに帰ると云うのだろう。
この世界はもう終わる。見ての通りに。
誰も世界が終わるなんて思っちゃいなかった。よくある下らない終末論。取るに足らない陰謀論。空想にすらなりやしない、ただの与太話だと。だが現実はどうだ。この有様だ、笑えるだろ?
……墓標なんざいらねえと思ってたんだが、何も残らねえってのも寂しいもんだな。世界が終わるってんだから、誰も彼もそうなんだろうけどさ。神様ってのが本当にいるんなら、もしかしたら、見てんのかも知れねえけど。ああクソ、祈りの一節も出てきやしねえ。
呆気ないもんだ。次はもっと、いい世界に――――
どうして、と何度問おうとも、答えは出ないまま。相手は笑いながら、そんなもの、お前が一番わかっているだろう、と嘯く。
わかると思うのか。――わからないフリだろう?
わからないと言っている。――わかりたくないだけさ。
……どうしてだ。
堂々巡りを始めた問いに、相手はまた笑った。嘲るような顔をして。
いい加減やめろ、見苦しい。理由なんて大した意味を持たないだろう? 残るのは結果だけだ。理由も、過程も、行動も、お前にしかわからない。お前しか知らない。何も残らない。今ここで答え合わせをしたがる理由の方が、余程わからないんだがね。
表情が歪む。
答えを墓から掘り起こせと言うのか。
そうだ、と言わんばかりに、最期の呼吸が僅かに漏れた。
もしも未来を見れるなら、見る気はあるか?
そんな戯言を、あまりにも場違いな質問を、間髪を容れずに一蹴した。
下らない。実に下らない。未来なんてものは不確定で、今、それを見たとして、一体、何の意味がある? 今日の存在すら危ういこの場所で、昨日の証明すらままならないこの世界で、未だ来ぬ明日に恋焦がれて何を成せるという。
含んだ嘲笑を感じ取ったのか、問いかけの主は表情を歪ませた。
恐怖を知らないのか、愚か者め。
今度こそ、声を上げて嗤った。恐怖を見捨てた愚か者は、お前の方だろう! それすら気づけず、そんな無駄な問いを投げたのか!
だからこそさ、じゃなきゃ未来なんて掴めやしない。
言葉にできない、と、甘んじていたのだろう。それに気づいたときには、もう、何もかもが遅かった。
言葉は失われて形を成さない。
過去は忘れ去られて思い出せない。
感情は塗りつぶされてごちゃ混ぜのまま。
相手すらも、もう。
今際の際に、乾いた笑いがこぼれ落ちた。来世を願ったのは、最初で最後、最期の、最後。