「踊りませんか?」
あなたが試すような目で手を突き出してきて、その手を躊躇うように取った。
取っていい物だったかも足を運び出した今では分からないが、どうせ2人を賑やかすものは空を明るく照らす月と、周りの植木たちと花だけなのだ。
どこの誰も、男と男が手を取って、男の私が見様見真似で覚えた女性パートを踊ろうが、そのミスをフォローしてくれようが、だれも、誰も見てない。
身体と共に心も踊った。
楽しいと同時に曲が終わる頃、離れなければいけない悲しみに涙した。
きっとこんな気の迷いなどこれっきりなのだから。
誇らしさ。誇れるものなどとうの昔に置いてきてしまった。
それは小さな地域の中で取れた極めてマイナーな部門の賞で、私はその賞の常連だった。だがそれ以上にその先を夢見る私にとって通過点でしか無かった。リビングに飾られた盾たちが、今何者にもならなかった自分を責めてくるような感覚がある。得意だとわかっているのに、それが得意な分野の人の中に入ったらただ凡庸なのだ。まだ私はリビングに両親が飾ってくれた盾や賞状に助けられ、それと同時に傷つけられる。
最初から決まってたような出会いが欲しい
目と目があって、あっこの人かも!って運命を感じたい。
とはいえ、良い年になってもそんな場面に出くわすことはなく。運命の人なんて居ないのと運命の人がいるはずとこの2つの思想の間で揺れている。いい加減現実を見ないといけないと秤は傾くが、私の夢はいつまでも白馬に乗った王子様がいつか私を見つけてくれると思っているイタイオンナなのである。
太陽を浴びると火傷してしまうバンパイアかの様に朝が苦手だ。陽の光には行動スイッチが備わっていて、長く浴びているとまだ眠たくて寝たいのに、身体が動く時間だと誤作動を起こす。これが二度寝には非常に厄介で毎朝格闘している。
早起きは三文の徳というけれど、別に早起きしてやることがない。私にとって朝はいかに眠りを蓄えるかだ。
だから朝の薬を飲むための朝食を取る時間は、この厄介な光とバトルしている。
鐘の音はいつ聞こえるのだろうか。
私はそれを待っている。
運命の人と出会った時頭の中で鳴り響くのだろうか、それが本当ならまだ運命とはすれ違ったままみたいだ。
鐘の音を聞くのはいつだろうか。胸ばかりが高鳴る。
バージンロードの上を恥ずかしくも思いいっぱいで父と歩く日は来るのだろうか。
わたしはそれを待っている。
願わくば、掴みに行きたいと思っている。鐘の音を鳴らすあのベルを手に。