ぷかぷかと水面に浮かぶ果実を片手間に弄くり回しながら、ぼんやりと目を閉じる。
12月22日、今日は冬至。それから、終業式…所謂、学期の終わりというものである。
特段それらしい友人と呼べる存在がいるわけでも無く、かと言って学校が嫌いになるほど人間関係ひいては勉学などに支障があるとも言えない。そんな私は”終業式”と云う存在にそれ程の感慨を抱くこともなかった。
柚子の香り。
苦くて、あまい、ひとりの香り。
つん、と立ち上ったそれが手で遊ぶ柚子のものだと気付くのにはいつもより随分と時間が経った頃だった。
いつだっただろうか。母さんが言っていたことがふと思い出される。
「風邪をひかないようにね、柚子湯に入りなさいね。冬至は1年でいちばん日が短いけれど、その日から新しく始まっていくということだからね」
そんな話聞いたこともないぞ、と軽く調べてみるが昔からの謂れのようだ。江戸っ子かよという話だ。
くすりと笑いが零れて、それが余計に笑えて、思わずそのまましばらく笑ってしまった。笑っているうちに少し泣けてきて、涙がぽろぽろと湯船に落ちて、水面を揺らしながら柚子の香りと融け合った。
そうか、私は寂しかったのか。
私が寂しがり屋だったのは、もう随分昔の話だと思っていたのに。時の流れは意地悪だ。泣きながら、また笑った。
これから日は長くなっていく。1人の時間が、少しずつ増えていく。
嗚呼、ああ、どうか、どうかはやくおわってください。
年が明けて学校に行ったら、今度はちゃんと話そう。友達と呼んでくれる子はそういないが、最初からそうであるなんて有り得ないから。
1人の夜は、少し、寂しいから。
柚子の、柑橘類のさっぱりとした香りが、つんと少し、鼻にくるから。
大自然の壮大さに憧れていた。特に、果てなく広がるあの空が、好きで、触れたくて、遠くて。憧れていた。
遍く世界の全てに存在している空は、時や場所に応じて様々な表情を見せてくれる。駆けてゆく星々の光る夜の空、大輪咲く夏の空。或いは、雲と広がり海と連なる晴れた、大きい空。
あの向こうへ飛んで行けたら、どれほど素晴らしいだろう。そう思って、今、私は筆を執る。
文字は、絵は。色は、空を象ることができる。私は今、空に触れている。その遠さに、触れている。だから私は詩を書いて、絵を描いて生きる。遠くまで飛んで、もっと、もっと、遠くまで。
それが果たして前かなど分からない、誰が教えてくれるわけもない。いつか落ちるかもしれない。下を向けば怖いかもしれない。
高いところは、空は時折酸素が薄いから。息をすることも時に苦しい。生きることは、苦しい。この翼は、折れてしまうかもしれない。けれど。
それでも、進む。この世界へ飛び立つ。羽を広げて、遠く広がるあの大空へ。その先に、描いた理想などなくとも。
私は、あの空の向こうを見てみたい。誰が何を言おうと構わない。
だから、君も共に行かないか。あの向こうに広がる世界は、空は、どんな色をして、どんな形をしているのか、知りたくはないか。
1人で飛んで行くのは楽しい。自由な世界は好き。でも、君と共に見る空は、また違った美しさを描いてくれる。
そんな気がする。
そんな気がしたんだ。