羽化

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3/14/2026, 10:41:02 AM

安らかな瞳


ここには、私とあなた、二人しかいない。
大切な秘密基地。
わたしたちだけの寝床。


昔からあなたは、いつも大変そうで。忙しそうで。
……私はそんな幼馴染のために、小さな小屋を作った。

「…すごいなあ… これ、ほんとに僕達の…基地?」
「うん。 次から、ここで遊ぼーよ」
私がそう言うと、きらきらと目を輝かせて、あなたは頷いた。

「ここ、すごく落ち着くね…
 …なんだか寝ちゃいそう」
「あはは! じゃあ、お泊まりでもする?」
秘密基地で泊まったり遊んだりしているうちに、あなたの笑顔が増えた。
見たことない顔がたくさん見れた。
色んなものを持ち寄って、まるで家のようになった。
穏やかな日常。
安らかな寝床。
嬉しそうな、あなた。
…ああ、私は、この瞬間が永遠に続けばいいのに!…と何度願ったことか。ほんとうに素敵な日々だった。
…いや、これが続くと信じきっていたのだ。




ある日。私は着慣れない服を着せられて、連れていかれた。
……葬式に。
基地をプレゼントして、丁度1年が経った頃だった。

ここには、あなたと私、二人しかいない。
大切な■■■■。
あなただけの寝床。

あなたは、秘密基地に寝泊まりした時と全く同じ、安らかな瞳をしている。 
…そんな、気がした。

安らかな日常。
安らかな寝床。
安らかなあなた。
その寝床に火がついて燃えつきるのを、私は黙って見ていた。 
ずっと、見つめていた。



帰り道。よくあなたと二人で通っていたあぜ道を、歩き続ける。服が汗で、肌に張り付く。それでも歩く。
道はいつもよりずっと、ずっと長く…永遠に感じる。
わたしは。
いてもたっても、いられなくなって。
人通りの少ない道に入った。秘密基地への通路。


…最後にあなたと遊んだ日のままだ。
出しっぱなしのトランプ。ボロい布団と、机。どこかの新聞。二人で描いた地図。非常食代わりの駄菓子。
私は、拾ったライターを握りしめる。


私とあなただけの、小さな世界だった。
私とあなただけの、
安らかな寝床。
安らかな寝床。
安らかな寝床。


火を、

3/14/2026, 9:55:35 AM

ずっと隣に居ますよ。
ずっと隣で見てますよ。

たとえあなたが気が付かなくても、わたしのことを忘れても、それでもずっと…ずうっと。

ずっと隣についていますよ。
ずっと隣で囁いてあげますよ。

貴方は悪くありません。誰も悪くはありませんよ。なんてったって、あれは事故だったんですから!

……それに。 わたし、恨んでなんか…

3/11/2026, 9:28:50 AM

愛と平和


(スペース取り!思いついたら書きたいです。)

3/10/2026, 9:58:04 AM

「あの子たちはもう戻ってこないって、頭では解っています。わかっては、いるんですけど…」

「………」

「…わたしにはもう、なんにもありませんから…」

そういって、彼女はにへ、と笑ってみせた。
過ぎ去った日々に縋ることしかできない。幸せな夢を見続けることしかできないのだから。私たちは。

ひどく無機質な白い部屋。
そこには、哀れな人間が、ひとりいるだけだった。

3/8/2026, 8:55:40 AM

月夜

ベランダで涼しい夜風に当たる。
そこまで高くも低くもないマンションからの景色。
遠くの夜景、スーパーの看板がきらきらと光って見えた。
飛行機だってちかちか点滅しながら飛んでいる。
でも空は昼間とは違い、吸い込まれそうな黒。
そこにはぽつぽつと、ちいさな白い星が浮いていて。
……三つ。兄弟みたいに、綺麗に並んだ星がある。オリオン座ぐらいは私にだってわかった。
私は一日の終わりに、こうやってベランダから夜空を眺めるのが好きだった。
輝く夜景、飛行機、星……
それを、月光を浴びながら眺め……

……………月光?
あれ、月、つきは…どこいったんだ。

私は毎晩同じ時間にベランダに出る。
昨日までは真上にあったんだ、なのに見当たらない。
季節で位置が変わることは知っている。
でも…こんな風に消えるわけがない。一体いつから?
気になる。気になってしまう。
 いつもなら部屋に戻ったらすぐ布団に入る…
が、今日は寝間着でそのまま外へ飛び出した。
もしかしたら、建物に隠れて見えなかったかもしれない。そう考えて……

マンションの外に出た。
やはり、雲ひとつない。綺麗な星ばかり。
でも月はなかった。
段々と怖くなってきて駆け出して…近所の眺めがいいところを探した。
でも、公園からも、空き地からも、土手からも、どこからも見つからない。見当たらない。

夜道を走り、段々と息が切れてくる頃。蛾が張り付いた街灯に足元を照らされている、1人の人間を見た。
その人も、空を見ている。まさかと思い、話しかけようとする… けど、いやいや流石に不審者か…!?
と理性で止め、そっと通り過ぎようとした。すると…

「…あの、すみません…月……ありません、よね」

その人は、私に話しかけてきた。
「え、えぇ…」
「貴方も…さっき探していませんでしたか?
 どうして気づいたんですか?」
逆光で顔が見えない。けれど、どこか淡く光っているような気がした。
「私は…ベランダで夜景を眺めるのが趣味で。
 月がないって気づいてから、どうしても気になってしまって…はは、困りましたよ」
そう説明すると、彼女は大きくこくりと頷いた。
「ステキな趣味ですね!
 …月がない夜空って、どうです?」
と、空を見上げながら聞いてきた。
街灯の明かりが、彼女の横顔をぼんやり照らしている。
どう、ですか…か……難しい事を聞くな……
「月って、人にとって…大切なんでしょうか?」
「え?」
そう問われて、少し驚いてしまう。
「大事、というか……なんでしょうね」
私も空を見上げる。
「…やっぱり夜空には月がないと物足りないですよ。 
星だって、街灯だって私達を照らしますけど… 月光に照らされるのが、いちばん好きなので」
彼女は黙って聞いていた。
「そうですか… 良かった。」

「ところで、貴方は…」
ふと視線を戻すと、その人はもういなかった。

代わりに、空には月が満ちていた。

私をやさしい月光が照らす。 
そんな月夜だった。

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