安らかな瞳
ここには、私とあなた、二人しかいない。
大切な秘密基地。
わたしたちだけの寝床。
昔からあなたは、いつも大変そうで。忙しそうで。
……私はそんな幼馴染のために、小さな小屋を作った。
「…すごいなあ… これ、ほんとに僕達の…基地?」
「うん。 次から、ここで遊ぼーよ」
私がそう言うと、きらきらと目を輝かせて、あなたは頷いた。
「ここ、すごく落ち着くね…
…なんだか寝ちゃいそう」
「あはは! じゃあ、お泊まりでもする?」
秘密基地で泊まったり遊んだりしているうちに、あなたの笑顔が増えた。
見たことない顔がたくさん見れた。
色んなものを持ち寄って、まるで家のようになった。
穏やかな日常。
安らかな寝床。
嬉しそうな、あなた。
…ああ、私は、この瞬間が永遠に続けばいいのに!…と何度願ったことか。ほんとうに素敵な日々だった。
…いや、これが続くと信じきっていたのだ。
ある日。私は着慣れない服を着せられて、連れていかれた。
……葬式に。
基地をプレゼントして、丁度1年が経った頃だった。
ここには、あなたと私、二人しかいない。
大切な■■■■。
あなただけの寝床。
あなたは、秘密基地に寝泊まりした時と全く同じ、安らかな瞳をしている。
…そんな、気がした。
安らかな日常。
安らかな寝床。
安らかなあなた。
その寝床に火がついて燃えつきるのを、私は黙って見ていた。
ずっと、見つめていた。
帰り道。よくあなたと二人で通っていたあぜ道を、歩き続ける。服が汗で、肌に張り付く。それでも歩く。
道はいつもよりずっと、ずっと長く…永遠に感じる。
わたしは。
いてもたっても、いられなくなって。
人通りの少ない道に入った。秘密基地への通路。
…最後にあなたと遊んだ日のままだ。
出しっぱなしのトランプ。ボロい布団と、机。どこかの新聞。二人で描いた地図。非常食代わりの駄菓子。
私は、拾ったライターを握りしめる。
私とあなただけの、小さな世界だった。
私とあなただけの、
安らかな寝床。
安らかな寝床。
安らかな寝床。
火を、
ずっと隣に居ますよ。
ずっと隣で見てますよ。
たとえあなたが気が付かなくても、わたしのことを忘れても、それでもずっと…ずうっと。
ずっと隣についていますよ。
ずっと隣で囁いてあげますよ。
貴方は悪くありません。誰も悪くはありませんよ。なんてったって、あれは事故だったんですから!
……それに。 わたし、恨んでなんか…
愛と平和
(スペース取り!思いついたら書きたいです。)
「あの子たちはもう戻ってこないって、頭では解っています。わかっては、いるんですけど…」
「………」
「…わたしにはもう、なんにもありませんから…」
そういって、彼女はにへ、と笑ってみせた。
過ぎ去った日々に縋ることしかできない。幸せな夢を見続けることしかできないのだから。私たちは。
ひどく無機質な白い部屋。
そこには、哀れな人間が、ひとりいるだけだった。
月夜
ベランダで涼しい夜風に当たる。
そこまで高くも低くもないマンションからの景色。
遠くの夜景、スーパーの看板がきらきらと光って見えた。
飛行機だってちかちか点滅しながら飛んでいる。
でも空は昼間とは違い、吸い込まれそうな黒。
そこにはぽつぽつと、ちいさな白い星が浮いていて。
……三つ。兄弟みたいに、綺麗に並んだ星がある。オリオン座ぐらいは私にだってわかった。
私は一日の終わりに、こうやってベランダから夜空を眺めるのが好きだった。
輝く夜景、飛行機、星……
それを、月光を浴びながら眺め……
……………月光?
あれ、月、つきは…どこいったんだ。
私は毎晩同じ時間にベランダに出る。
昨日までは真上にあったんだ、なのに見当たらない。
季節で位置が変わることは知っている。
でも…こんな風に消えるわけがない。一体いつから?
気になる。気になってしまう。
いつもなら部屋に戻ったらすぐ布団に入る…
が、今日は寝間着でそのまま外へ飛び出した。
もしかしたら、建物に隠れて見えなかったかもしれない。そう考えて……
マンションの外に出た。
やはり、雲ひとつない。綺麗な星ばかり。
でも月はなかった。
段々と怖くなってきて駆け出して…近所の眺めがいいところを探した。
でも、公園からも、空き地からも、土手からも、どこからも見つからない。見当たらない。
夜道を走り、段々と息が切れてくる頃。蛾が張り付いた街灯に足元を照らされている、1人の人間を見た。
その人も、空を見ている。まさかと思い、話しかけようとする… けど、いやいや流石に不審者か…!?
と理性で止め、そっと通り過ぎようとした。すると…
「…あの、すみません…月……ありません、よね」
その人は、私に話しかけてきた。
「え、えぇ…」
「貴方も…さっき探していませんでしたか?
どうして気づいたんですか?」
逆光で顔が見えない。けれど、どこか淡く光っているような気がした。
「私は…ベランダで夜景を眺めるのが趣味で。
月がないって気づいてから、どうしても気になってしまって…はは、困りましたよ」
そう説明すると、彼女は大きくこくりと頷いた。
「ステキな趣味ですね!
…月がない夜空って、どうです?」
と、空を見上げながら聞いてきた。
街灯の明かりが、彼女の横顔をぼんやり照らしている。
どう、ですか…か……難しい事を聞くな……
「月って、人にとって…大切なんでしょうか?」
「え?」
そう問われて、少し驚いてしまう。
「大事、というか……なんでしょうね」
私も空を見上げる。
「…やっぱり夜空には月がないと物足りないですよ。
星だって、街灯だって私達を照らしますけど… 月光に照らされるのが、いちばん好きなので」
彼女は黙って聞いていた。
「そうですか… 良かった。」
「ところで、貴方は…」
ふと視線を戻すと、その人はもういなかった。
代わりに、空には月が満ちていた。
私をやさしい月光が照らす。
そんな月夜だった。