袖振り合うも多生の縁、とは言うけど
いくら歳月を重ねようが
幾年の輪廻を繰り返そうが
きみがいま、どこにいるのか
わたしにはわからない
諦めかけていた数多くの人生の今生で
やっと出会えた
しかし開口一番
「何度も潰しやがってー!」
…は?
目の前をぶんぶん飛ぶ蚊が、
流暢な日本語でぶんぶん怒っている
…え、なに、真っ赤になった蚊が喋ってる。
それ、わたしの血?
あ、気がついたらかゆい。
べしっ。
反射的に、喋る蚊を潰してしまった。
一寸の虫にも五分の魂とはいうけど
何で血を吸う前に、喋らないかな
ムヒを塗りたくり
せめてのお詫びに、汚い水を用意する
これで
きみがいま、どこにいるか分かったよ
何を思い悩むのかは存じ上げませんが
その日は
もう既に夜明け前から、物憂げなことでございました。
空を見上げ
深く溜息をつきなさること
もはや数えきれずな状態です
太陽は昇り
月は沈む
日に二度の
太陽と月の逢瀬
皆既日食で体を重ねても
地上から人々が眺めるので
そっと触れ合うだけだとか申しております
人々は個人情報とか言っているくせに
我々にはないのかと憤慨しています
ほらほら
そんな顔をしていると
さみしがり屋の月が欠けてしまいますよ
満月の夜には
あなたのために光り輝くのですから
わたしは
いつでもあなたたちを見守っていますよ
あなたにいちばん近い惑星より。
悪気はまったく無い。
ないけど、
ふと見てしまった隣に座った人が高速で打つ文章に、思わず突っ込み入れてしまった。
「天照大御神がタロットカードの太陽を引くって、どんだけ日照りと干ばつを引き起こす気なんだ」
…ごめん。
言わなきゃいいのに、と自分でも思ったよ。
隣の人は
岩戸に隠れてくれそうもないし
太陽は逆位置だとニコリと笑って言うので
口は災いの元だと痛感した時には
もう手遅れかもしれない。
それは、いつのことだったか
誰から聞いたのかさえも
忘れてしまったのだが、こんな話がある
皆一様に芽吹きを心望み、
若木が逞しく大木へと育つのを期待していた
しかし
若木には心があり、優しすぎた
自分の足元に
芽を出した名も無き雑草たちが、大木へと育てと自分を見守る者たちに蹂躙される
ひどいときは
小さな雑草たちが、自分のために引き抜かれ
祈りを捧げられるときに
容赦なく地面にのめり込まされる
それでも
小さな草たちは芽吹く
まるで
心優しい若木を守るように何度でも顔を出す
小さな雑草たちに守られながら
中木になった若木は
必要な場所だけ地面を残され
あとは草が生えぬよう整地されてしまった
手入れがされていないと判断され
地面から芽吹いた小さな雑草たちは
こまめに抜かれる
もう芽吹くことも
許されない小さき草たち
若木だった木は涙を流すように
葉を茶色に染め、
はらり、はらりと散らし始める
いままで
守ってくれていて、ありがとう
強く根を張り、君たちを守りたかった
さいごに
捧げられていた祈りの力で
君たちが生きていけるようにする
その日の
草木も眠る丑三つ時
若木だった木は、
勝手に蓄積していた力で雄叫びをあげる
地面は割れ
魔を呼び寄せる
さあ
今のうちに芽吹く用意をして
夜明けと共に
前人未踏の地を作らねば
…だけど、ごめんね
ほんの少しだけ残った力で
生き残った罪もない者たちに
命を繋いでいけるだけの実はつけるよ
その時だけは、
踏みつけられても許してほしい
若木だった木は力を振り絞り
すべての葉を実に変え、
早くも芽を出しかけた小さな草に託した
そして
夜明けと共に
命からがら逃げてきた人々の目の前には
もう
雑草とは言えない巨大な茂みと、
たわわに実をつけた草花、
それと朽ち果てた木があったそうだ。
「鬼の木伝」
一日一生、と言うことばがある。
朝目覚めた時に命が生まれ
夜眠るときに命が終わる
不眠症の人はどうする
夜勤の人は、どうなるのか
そんなのは横に置き
時間の逆行でもしなければ
今日と言う日はもう二度と来ない
昔は良かったと
終わってしまった命に
日々思いを馳せて過ごすのもいいが
また新たに始まるであろう
「明日」という生まれたての命を大事にしよう
そんな思いを感じながら
今日にさよならを告げよう
おやすみなさい、
良い夢を見て下さいね