Noir

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6/20/2024, 10:00:39 AM

相合傘

靴箱から出る
朝は晴れだったのに今は「ザーザー」となる大雨。
この時期特有の天気の変わりようには心底呆れるものがある。やっぱり天気予報を見ることは大事よな。うんうん。そんな自問自答に似た会話を頭の中で繰り広げながら1本の折り畳み傘を出す。
深呼吸をして大雨に飛び込む覚悟が出来たとき、視界の右端にうつったのは困り顔をする好きな人。
(傘持ち合わせてないのかな)
(傘がある自分+傘がない好きな人=相合傘できるチャンス!?)
そんな思考が頭の中に飛び込んでくる。
「良かったら途中まで一緒に帰らない?」
「傘!あ…る……し」語尾に近づくほど小さくなる声に頭の中の自分が怒っているのが分かった。
「どう…かな?」
「いいの?じゃあその言葉に甘えさせてもらおうかな」
「もちろん!全然大丈夫だよ!」思ってもいなかった返答に日本語がおかしくなっていたかもしれない。
でもそんなことが気にならないほど嬉しかった。

大粒の雨が傘に落ちる音がいつもより大きく聞こえる。
君と僕が2人きりで帰れるのは最初で最後かもしれない。そう思うだけで僕の心臓は周りの音よりも大きくなっている気がした。
君にとっては365日の中のある1日の一時。
僕にとっては一生の中で1番大切な一時。
そんな対比が頭の中を駆け巡った。
「家、ここ」そんな彼女の声がして、思考から手を離す。
どうやら彼女の家の前についたらしい。
「じゃあね。」
「うん!傘ありがと!」
「ううん。気にしないで。」「バイバイ。」
「うん!バイバイー!」明るい彼女の声の後に聞こえたのはガチャンと玄関扉がしまる音。

マップを頼りに自分の家に帰る途中、視界のはしにまばらな白色をとらえた。顔をあげるとたくさんの白いサクラソウが咲いていた。そんな所で僕は一粒の涙を流していた。自分でも驚いたが、どうやら自分の体は我慢の限界だったらしい。
「バイバイ、僕の…………。」
最後に言った言葉は声が小さすぎたのと大雨によってかき消された。ただ、唇が震えていたことだけが分かった。




サクラソウの花言葉「叶わぬ初恋」

6/18/2024, 12:12:26 PM

落下

「っは……はぁはぁ」
またこの夢だ。階段から落ちる夢。
身体がビクッって動いて、良くも悪くも目が覚める感覚。正直心臓に悪いからもう止めてほしい。
そう思ってもまた同じ事を繰り返す。
だから、毎日毎日夢のことしか考えられなかった。
(怖い。どうしてこんな夢ばっかりなんだろう。
はやく終わってほしい。)
だが、そんな思いとは反対にやむことのない夢。
そんな現状にもだんだん慣れてきて、恐怖が疑問へと変わっていった。
(なんで、こんな夢ばかりなんだろう。)
(なにか理由があるのだろうか。)
「🔍️階段から落ちる夢 なぜ?」
「それは失敗や挫折の暗示です。」(諸説あります。)

「失敗と挫折の暗示………か……」
正直そんなものは思いつかなかった。
だってまだ未成年。乗り越える壁も低いし、なりより挑戦をしていない。
そう思っていても夢から解放される訳はなかった。
(はぁ……もう、無理なのかな、、、)
(もう、いっそ諦めてみようか……)
(うん、そうしよう。)
そこから夢に関して考えることをやめた。
すると不思議に夢も徐々に減っていった。

案外考えてないほうが上手くいく場合もあるもんだ!大きなことを新しく学んだ1日となった。

6/15/2024, 9:04:03 AM

あいまいな空

空が暖色と寒色がきれいにグラデーションしている時間。そんな時間にあるマンションの一室、落ち着いた声が響いていた。

「今は朝、昼、夜のどの時間か分かる?」
「分からない。」
その答えで僕の心は喜びで満たされていた。
それもそうだ。こんなに時間がかかったんだから…
1週間ほど前、ある1人の女性を誘拐した。
始めは反抗的で、毎日叫んでいた。「助けて!」と、助けなんてくるはずないのに………
そう思いながらその光景を眺めるだけで、僕がこの子を誘拐した利益が十分にあったと言えた。

その子のいる部屋はシャッターが完璧にしまっていて、日の光なんてものは1ミリも入ってきてこない。おまけに時計もない。いつか狂って、朝か夜か区別できなくなってしまったらどれだけよいものか………。そう期待を高めながら、毎日同じ質問をする。
「今は朝か昼か夜どれか分かる?」
「夜。」
まぁまだ1日目だし、こんなもんだろ。

そう思って始まった誘拐生活も早1週間。
長かったやようで短かった。
(けっこうこの子ちょろいな)
そんなことを思いながら、さっきの答えが脳内をループしている。(「分からない。」)
あぁ、まさか1週間で感覚が麻痺するなんて…。
おかげで、あの子は虚ろな目をしている。
部屋の隅には睡眠薬。
(あぁ、可哀想。なんもしてないのにね。)
そう思いながら笑みを向ける。
彼女は無表情。だが、それすらも可愛さを感じた。
(よし、今日はこれぐらいでいいかな。)
そう思ってその一室から出る。「ガチャ。」
鍵かけも万全だ。

この先は僕がしらない話。
僕が去っていった瞬間、彼女の目は一回まばたきをすると、しっかりと焦点があっている目へと変化した。
(まじ、あいつちょろすぎ)

今は、朝か、昼か、夜か、それともそれ以外か……
彼女はシャッターを開けながら思った。
(ほら、やっぱり夕方じゃん。)
彼女が見上げる空には、虹色に近いあいまいな空が広がっていた。

6/14/2024, 7:31:08 AM

あじさい

「どうしたの?急に」
「いや、なんでも、ただ青い紫陽花きれいだなーって思って見てるだけ………」
そう、ただ見てるだけ………
別にあなたへの疑いなんかじゃない……
でも、それでも、あなたからはそんな気がする。

「ほら、やっぱり。」
あなたの部屋には、あなたも私も、使ったことのない濃い色のリップ。
どこからでもかすかに匂う甘い香水。
その瞬間決定的になったそれ。私は冷淡に対応した。元々少なかった荷物をまとめ、家で育てていた青い紫陽花と手紙をあの人の家の机において帰った。
「さよなら。」

青い紫陽花の花言葉→「移り気」「浮気」「冷淡」「無情」

6/10/2024, 12:41:54 PM

やりたいこと

「チュン、チュン」
今日もいつもと変わらない鳥の鳴き声で目が覚める。ペットボトルの水で口をゆすぎ、顔を洗う。
そうして目が覚めたらカーテンを開ける。
目が覚めていても突然の太陽の光には勝てることはなく目を細める。「まぶしっ」そう言いながらも、毎日同じことをしている。いわば日課だ。

朝起きてから服を着るまでのルーティンは毎日一緒。違うところといえば、毎日服が変わる。
高級ブランドの日もあれば、プチプラの日もある。すべては気分だ。気分で決まることはファッションだけでなく、今日1日することも決まる。

今日することが決まると足取り軽く友達の家に突撃をしにいく。これもまた日課だ。
「よっ!今日することが決まった!」
「ふぁぁぁ、なに?」
友達はまだ寝起きらしく大きく欠伸をしていた。
「ずばり!…………寝る!」
「あっそう。じゃあ、おやすみ」
「ちょ、まてまてまて。冗談だよ。」
「えっ、なんだよ……まじかと思ったじゃん。」
「そんなわけないじゃん!」
「はいはい、じゃあ本当は何ですか?」
「よくぞ聞いてくださいました。すばり………決まっていない!」
「なんだよ、てめぇ、しばくぞ。」
「いや、ごめんってたまには2人で考えてようかなって……」
「あー、なるほどね。」

さぁ、今日はどんなやりたいことをしようか。
2人しかいないこの広い世界で……。

fin

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