タイムマシンがあったら、この世に生まれたくない。
特別な夜はあなたといっしょに。
昔、遠距離恋愛をしていたことがある。
日本と14時間の時差があり、時差の関係上、夕方が唯一相手とメールや電話でやり取りできる時間だった。
暑い夏の夕方、ビールを飲みながら夕食の準備をしていた。
いつものように電話でたわいもない話をしていると
『何してるの?』と聞かれ、
お酒飲みながらご飯の準備をしていたと答えた。
すると
『ちょっと待ってて』と電話の向こうで相手がいなくなった気配がした。
高揚した声で『お待たせ!!乾杯しよ!!』と言った。
相手もお酒を用意してきたのである。
電話越しに聞こえるグラスをぶつける音が本当に乾杯しているかのようだった。
日本が夕方の時、相手が住む国は0時近くで、時差はあるけれどお互い夜だった。
私にとって特別な夜になった。
海の底はきっと静かで美しい景色が広がっている。
光が入れば竜宮城やスイミーみたいな景色が広がっていて、光が差し込まない程深ければ、深海の景色が広がっていると思う。
もし、目の前に亀が現れて
『行きたいところはどこでもお連れします!!』
と言われたら…
うーん。竜宮城に行きたいかな。
亀の甲羅から落ちないように、甲羅を掴み続けられように握力を鍛えないと。
私は日記が続かない。いつもに三日坊主になってしまう。
なので、続かなかった日記が数冊ある。それが閉ざされた日記にあたるのかもしれない。
日記ではないが、閉ざされた記憶がある。
昨晩…今朝…久しぶりに義父の夢を見た。
義父はなんでも自分の管理下に置きたがる人で、私の携帯のアドレスも、メールの内容も平気で見る人だった。
夢の内容は、義父に嘘をついて人に会う約束があり、会う途中に義父にバレる夢だった。
烈火の如く怒鳴り散らす義父に対抗する術もなく、ただ茫然と立ち尽くすしかなく、また生活の全てにおいて義父の管理下に置かれる絶望感を感じているという内容だった。
今でこそ義父の一挙一動がありえないし、虐待にあたると思うが、当時の私はそれが当たり前だと思っていた。
なんて後味が悪い夢だろう…
そんな義父が嫌で、自立して生活している。義父との様々な出来事をズタズタに切り刻んで心の奥底にしまったはずなのに…
木枯らしで思い出すのは、甘栗屋さんだ。
なぜなら、木枯らしが吹くとても寒い冬の日に母と街に出かけたからである。
甘栗屋さんはデパートの横にあった。
大黒くテカテカした甘栗が鍋の中をグルグルまわっていた。
急にその甘栗がたべたくなり、母にねだった。
母はびっくりした表情となり、『いいよ』と買ってくれた。
大きい紙袋に入った甘栗を受け取ると、手袋をはめた手にも暖かさが伝わった。
1つ食べていいかと母に聞くと『いいよ。お母さんも食べたいな。』と言った。
2人で手袋を外し立ったまま甘栗を食べることにした。
栗の平べったい部分に爪を立て殻を剥いた。殻の中にはシワシワの小さい栗が入っており、口の中で砕け甘さが広がった。
母と見合わせて『美味しね』と言った。
寒い寒い木枯らしが吹く日に母と甘栗を食べた思い出を思い出した。