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10/4/2025, 1:52:11 PM

今日だけ許して

10/3/2025, 2:10:18 PM

勉強が出来て、スポーツが出来て、素直で、負けず嫌いで、プライドが高くて、潔癖症で、基本愛想がなくて人に興味がない。特徴を挙げようとすると、人として悪いところばかり出てくるが、どこか惹かれていた。お世辞や陰口を巧みに使い分ける八方美人がうまくやっていける世の中で、1人いつまでも子供みたいに真っすぐ純粋無垢、要領良いはずなのにある意味不器用なところが魅力的に思えた。こんな人いないって。
なのに、どこにでもいるような奴に懐き始めた。どっこにでもいる八方美人に。そいつと話している時は見たことないくらい笑顔で、見えないはずの尻尾が見えた。そんな奴じゃなかっただろってがっかりした。ムカついた。ムカついたから、アイツにもムカつかせたかった。もはやキモがらせたかった。誰彼構わず加害する趣味はないし、他人に嫌われないほうが生きやすいのは知っている。でもアイツには嫌われていたい。キモいって思われたい。リイにとって一番気色の悪い存在になりたい。
本当にたったそれだけの話だから、そんな訝しげに見ないでよ。どこにでもいる八方美人とか思って悪かったからー。

10/2/2025, 4:20:58 PM

遠い足音がだんだん大きくなってこちらに近づいてくると思った。あーはいはい。
え?
「リーーサーーー!!」
ドンと体に衝撃がありよろける。抱きついてきた小さい物体がキラキラした表情で見上げてくる。認識と軽い憂鬱にそんなはずはないと思い顔をあげると、廊下の向こうから遅れて歩いてくるのが見えた。
どういうこと?
ゴメン、と口パクと片手でジェスチャーされた。
それで今理解する。そんなことあるんだ。


リイに私はなぜか好かれていた。目に入るといつも大きな声で名前を呼びながら突進してくる。他の人にやってるのを見たことない。私と喋ってる時が断然楽しそう。てか他に人がいても私の方しか向いて喋ってない。そんなあからさまだから周りも気づいてて若干毛嫌いされ、こっちも正直辟易としている。
それでもリイは私と同じか、それ以上に勉強が出来た。ある時、テストで勝負しよう、負けたほうが勝った人の言うこと何でも聞く。なんて言われ勘弁してくれと思っていたところ、話を聞いていたリキがなぜかリイに自分と勝負しようと持ちかけた。それ自体がよく分からなかったし、まずリキは私よりも勉強が出来なかったはず、尚更リイに敵うとは思えない。それをリイも分かっていて、やる意味ある?と渋っていたが、おかげでなんとなく私との勝負の話は流れありがたかった。

「てかリイに勝ったって本当?」
「そう!めっちゃ頑張った〜」
テスト返却日、リイに発狂しながら告げられ、そう言えばそんな話をしていたなと思い出すくらいにそのことは忘れていた。
「…そう言えば、なんでも言うこと聞くってのは、なにしたの?」
リキのお願いはなんだったのかを一応程度に聞いたところ、なぜかリイは歯切れの悪い返事をしただけだった。
「ああ、いやまだなにも頼んでない」
リキは一瞬目を逸らしてそう言った。
またはぐらかされた、と思った。なんで?
「それに、次のテストもあるし」
「え?」
「次のテストで負けたら言う事きかせる権利は消滅、万が一また勝てたら2倍ってことになった」
「…へえ、それで良いんだ」
「うん、別に良い」

「勝てるから別にいいってことだったんだ」
「いや全然全然、今回も必死だったよ」
どういうことかリキがまたリイに勝ったらしい。なんだやれば出来るんじゃんと思ったけど、そうまでして聞いて欲しいお願いってなんなんだと、ここまでくるとちょっと気になってくる。
「で、そんで」
「リーサーー!!」
うわ来たと思った時にはすでに目の前にリイがいて、ハイテンションで話し始めている。いつものようにはいはいと話半分で聞きつつも、リキに負けた話をしていること、その言い訳をグダグダしていること、どうやら特別リイがサボったり調子が悪かったのではなく、本当にただただリキが超頑張っただけっぽい話なことは分かった。その張本人が目の前にいるというのに全く気にもせず私の方だけを見て延々と喋る様を、リキはただずっと見ていた。それが急に一言。
「じゃあこうしよう」
「……なにが?」
話を遮られたリイが怪訝にそう言い、初めてリキの方を向いた。
「もし次のテストでリイが勝ったら全部無し、負けても今までのは無かったことでいい、そのかわり

リサに卒業まで自分から話しかけるの禁止」



「勝ったー!!!だから大丈夫!あでさ」
リイは最初めっちゃ拒否してた。でもリキが、勝てば良いんだよ?てかまずこっち2回分権利あるんだからそれで今行使しても良いんですよ?それを1回勝てばチャラで良いって言ってるんだけど?と言われれば、流石にどうやっても反論出来ない。正論すぎる。
もう大声で呼び止められることも、タラタラ話を聞くことも無くなるんだと思った。勝手にリキが勝つものだと思い込んでいた。二度あることは、とか以上にあの時のリキの顔が、あの提案をする直前のリキの顔が、なんか、マジだって思ったから。もしかしてリキは。
遠くで申し訳なさそうにしてるリキに、謝らないといけないのは私なの?なんかごめん。と目を合わせたまま心中で訴えてみる。
「で、結局最初のお願いはなんだったの?」
マシンガントークを続けるリイを遮って聞いてみる。
「え、いやそれは…」
「教えてよ」
「えーあー……ないしょ!!」
言い残すか残さないかあたりでさっと逃げていった。別に追いかけないが。
「あれ、珍しく話が短い」
ゆっくり歩いてきたリキが茶化すように言う。
「リキがリイに何してもらうつもりだったのか聞いたらどっか行った」
「なるほどね」
リキは笑っていた。まさかこの人、わざと負けた可能性あるんじゃないか。
「知りたい?」
そう言っていたずらに笑う。
結局何がしたかったのか、一番謎な人だなと思った。

10/1/2025, 2:28:14 PM

夜肌寒くなってきて、朝暑さで起こされることもなくなると秋の訪れを感じる。
蚊に刺されることでまだ夏なのかと舌打ちする。

9/30/2025, 1:57:22 PM

窓の外には灰色の空と霧に沈む田畑。遠くの電柱がゆっくりと後ろへ流れていく。窓の外を見続けていた。列車の速度に、時間は引きずられない。自分の顔を映していたはずの窓に、いつのまにか知らない景色が流れる。夜はほどけていたらしい。世界は音も気配も無く目を覚ます。
知らない駅を通過した。駅のホームに立つ人の影は、どれも同じ方向を向いて、どれも違う時間を見ている。その人それぞれの心情も事情も目的も知ることは無いが、確かに存在している。だからこの列車は走っている。
いまはただ、この音に身を任せていたい。誰かの夢の中を横切るように。目を閉じても続いていく旅を、確かめながら。

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