永遠なんてないことは、最低限の知能を持っていれば誰でも理解している。頭では分かっているはずなのに、それを忘れる瞬間も何度もある。とてつもなく美味しいものを口に入れた瞬間は永遠に食べていられると思うし、お腹いっぱいになればもう2度と食べたくないと思うこともある。数時間後にまたお腹はすく。永遠に好きだと思った物、事、人も、いずれは飽きたり嫌いになったり興味が無くなったりするもの。もうお金や時間は無駄にしないと決意したはずがまた別のものに執着しだす。それの繰り返し。
この日常が永遠に続くと思ってしまう。でもそんなわけない。人の思考は変わり、老いていずれ死ぬ。世間の流行も、自然界も生命体も常に変化している。変わることが怖く感じる時もある。でも変わらないほうが怖い。永遠が本当の意味での地獄。限りがあるから、散りゆくから美しい。
永遠なんてないけれど、永遠の命を手にしているかのように生きたっていい。明日死ぬつもりで生きてもいい。約束された終わりがあるからこその贅沢。
魚のみりん干しがあまり好きではない。食べられないことはないが、独特の甘さと色味が食欲をそそられない。
子どもの頃は割と食卓に出ていた。父親は好きらしい。そもそも魚が今ほど好きではなかったので、みりん干しが出た日の夕飯はハズレだなと思っていた。
自分で食事を用意するようになってから、一切食べていなかった。当然、自分で働いたお金で嫌いなものを選んで買うはずもないので存在も忘れていた。
たまたまみりん干しを食べる機会があった。やはり好まない味だと思ったが、そんなことより懐かしい味だなと思った。
母親に会えなくなって随分経ってから、またなにかのタイミングで久しぶりにみりん干しを食べたら泣いてしまうんじゃないかと、バカバカしいが心配になった。涙の理由がみりん干しなんてそのほうがバカバカしいので、懐かしく思えない程度に、定期的に食べておこうか。
「食べ物系は注文しなくていいの?」
「今はいいや、お腹空いてないんだよね」
いや食べようと思えば食べれるんだよ?でもさ、お腹空いてないのにわざわざ食べるの損した気分になるじゃん。と君は言う。
「昼が遅かったの?」
「いや食べてない」
「朝から何も食べてないってこと?」
「いや、昨日の夜から」
「……え、今日なにも食べないの?!」
「うん」
「なのにお腹空いてないの!」
「だからそうだって」
向かいに座る久々に会う友人は、前から痩せていたがさらにヒョロヒョロになったように見える。都会のおしゃれなカフェで平然と大きなあくびをした。おかしい、なんでこうも違うんだ。私なんか朝トースト2枚とヨーグルトとフルーツも食べたのにお昼まで待てなくてお菓子をつまみ、お弁当だけじゃ足りないので追加でサンドイッチを調達し、午後は同僚が配ってくれた差し入れやお土産やらをつまんだにもかかわらず今腹ペコだというのに。
「……すっご」
おまたせしましたと定員さんがテーブルにプレート料理とサイド料理を次々並べてくれる。定員さんが立ち去った後、全部の料理をなんとなく私の前に押し出し空間を確保しブラックコーヒーに手を伸ばしながら言われた。
「あんたのがすごいよ」
「え?」
「毎日早く起きて、朝ごはんとお弁当用意して」
「…そりゃお腹すくから」
「私だって学生の頃は朝も昼もお腹すくから食べてたはずだけど、それって親に用意してもらえてたからで、今は食べたきゃ手間も金もかかる
そう思ったらだんだんおなか空かなくなっちゃった
だから偉いよ、あんたは」
いっぱい食べてさ。とコーヒー片手にテーブルの上の大量の料理をちらりと見て含み笑いで言う。
「それはどうも」
褒められてるというより馬鹿にされてる感じもするが、ただ食べたくて食べてるだけなのに偉いなんて言ってもらえることもないのでありがたく受け取ることにする。
「ところで本当にこれ全部食べきれるの?」
「当たり前じゃん余裕だよ、あんたのコーヒーが冷めないうちにね」
パラレルワールド