誰もいない教室ってみんな等しくエモいと思う。
現役ですらそうだと思う。
そんな概念ってそうそうない、義務教育だから当たり前なんだけど、でもすごい。
「あいつらよく3人でいれるよな。」
前を歩く仲間の3人と、なんとなく距離を取りながら2人で歩いていた。
全部又聞きだが、どうやらドロドロと不穏であまり健全に仲良しではないらしいことはなんとなく知っていた。でもそれも、全部勘違いなんじゃないかと思わせるほど、3人の後ろ姿は清々しく爽やかで美しい。
「まあ、外野がとやかく言うことじゃないんだよ」
少なくとも、だれも苦しそうではないし助けも求められていない。なら、見守るしかない。愛の形はそれぞれということで。
先の信号が点滅した。1人は走って渡り、2人は立ち止まった。走った1人は振り返りもせずそのまま歩いて先を行った。思わず顔を見合わせた。
「本当にわからん」
その目は既に前に向き、手前の止まっている2人ではなく、スタスタと歩く1人の背中を見つめているように見えた。
渡れないよな、お前は。羨ましいまであるでしょ、あの信号を1人で渡れるあいつが。わかるよ、自分も同じ側の人間だから。
「わかる日なんか一生来ないよ」
わざとらしくペースを落として歩いていたものの、恐ろしく長い信号のせいで2人に追いつき、白々しく話しかけた。やはり何事もないように会話が進む。まあ逆に理解されてないこともあるよなと思いだし強引に自分を納得させた。
思い出せなかった「」
「この曲名前なんだっけ」
曲?ああ、曲か。誰もが一度は聴いたことのある洋楽。リビングでぼんやりと、見てるわけでは無いけど消さないテレビに流れるCMのBGM。一瞬、題名なんか無いだろと思ったがそんなわけない。どんな曲にも名前はある。多分。
トゥモローランド、じゃなくて、トゥルーラブ、じゃなくて…
「とぅもろー…らぶ」
「ラブ・トゥモローだ」
まるで自力で思い出したかのように口ぶりで。そう、それ。
「"本当の愛"って日本語あってる?」
「何の話?」
怪訝な顔をちらりとこちらに向ける。そうだった、とぅもろーらぶにたどり着くまでの単語を口に出してはいない。
「愛なんて本当しかないのに、そんな表現したらまるで愛は基本偽物みたいな」
「…どっちがベースかはしらんけど、偽物もあるでしょ。ホストとかキャバクラとか」
「それは最初からビジネスだからそもそも愛じゃない」
「浮気とか不倫とか?」
「それは…本人達は真剣だから本物なんじゃない?」
「へぇ」
あ、まちがえたかも
「確かにね、むしろ本当の愛かもね」
「そういう人達が自分達を肯定する為に作った言葉かもねぇ、こっちが本物だって思いたくて」
「ふうん」
納得してるんだかしてないだか曖昧な感じで頷かれる。
「愛に対して本当だ偽物だってジャッジした瞬間から、その人達も信じ切れてないのかもしれないね
信じられないから、相対的な見方をしてるのかもな」
「じゃあSecret loveって言ってくれたほうが良いね」
「…どっちみち当事者が言うのは良くないかもね」
ページをめくる動作、音、このほんの少しの煩わしさが良い。ぶってると言われようがなんだって好きなものは好き。紙の本が。