はとり

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4/19/2023, 10:17:43 PM

 もしも全人類が未来を見れるようになったら、真っ先に天気予報がなくなるのだろう。
 人の行動なら「こうなる未来があるから気をつけよう」といくらでも変わるけれど、天気は絶対に変わらない。文明の発達した現代でさえ、自然の気まぐれに振り回されるほかないのだから。

 『雨』マークのついたスマホの天気予報を睨みつけながら、そんなことを考える。ポテトを1本つまみ口に運んだ。

 フィクションの中で未来視が登場するとき、たいてい回数に限りがあったり痛みを伴うなどの代償があったりする。
 例えば全人類が『人生で3回だけ』未来視ができるなら? これなら気象予報士は安泰だ。よほど大事な日でもなければ、たった3回の貴重な未来視をその日の天気を知るのに使う人はいないだろう。人生で100回だったとしてもあまりいないだろう。

 では、『無制限に』『気軽に』未来視ができるとしたら?
 好きな人の行動やテスト問題を知る前に、みんな1日の天気を見るのではないかと思う。結局その日の生活がいちばん大切。
 人為的に変わることのない天気の未来は確実だ。今日は雨が降る、という未来が見えたなら、折りたたみ傘を持っていくなり予定を変更するなりできるのだ。
 現代の天気予報でも見ることはできるけれど、精度は向上したとはいえまだまだ不確実。
 外すことだってあるのだ。……例えば今日のように。盛大に外して「違うじゃん!」と言おうとすると16時の『晴れ』が『雨』にしれっと差し替えられている、なんてことも未来が見えればなくなるだろう。

 まぁ、『無制限に』『気軽に』なんて未来視、楽しくないし収拾つかないと思うけれど。だからフィクションの未来視は制限付きなのだろう。

 大きな雨粒が強く窓を叩いている。まだ雨は止みそうにない。
 いつ帰れるのかな。
 未来を見ることはできない私は、傘を忘れてしまったのだ。

4/19/2023, 3:46:40 AM

ある女優の、若い頃の写真を見た。
白黒写真なのが時代を思わせる。

衝撃だった。
濡れ羽色の黒髪も、白磁のように透き通った肌も。
ゴテゴテと色を乗せなくても──あるいは乗せた色が写真に反映されていなかったのかもしれないが──、女性は華やかで鮮やかに写っていた。

その女優は現在でも活躍している。色が付いても上品さは変わらない。
私もこのように育ちたい。
無色の世界でも色彩を纏う女性に。

4/16/2023, 10:46:30 PM

旅行雑誌を見るのが好きだ。

何もない休日。購読している旅行雑誌の最新号を手に取って、適当なページを開いた。
今回は……長崎だ。
高台から見る夜景と港町。暮らすには不便そうな坂の多い街並み。名物グルメのちゃんぽん。
その土地の生活をそのまま切り取ってきたような写真を眺めながら『自分がそこに立っていたら』という妄想をするのが、休日の密かな楽しみなのだ。

旅行は疲れてしまうしお金もかかる。
もちろんそれに見合う楽しみと経験が待っているのだけれど、どうしてもその2つがネックになってしまう。
だから、体力と金銭がキツいときは旅行雑誌で妄想することにしている。写真や文章で掲載されたスポットにしか"行った気"になれないのは惜しいところだけれど。

ひとしきり妄想を終えたあと、スマホのメモ帳を起動して"長崎"と書き加えた。
メモのタイトルは『ここではないどこかで』。
いつか妄想を答え合わせするために、しっかり記録しておこう。

4/14/2023, 3:42:38 AM

どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう!
今日は雨だって言ってたのに!
要らないはずだった体操服を掴んで荷物の中に突っ込んだ。

「体育」という授業がそもそも嫌いなのに、次は隣のクラスと合同授業だー、なんて先生が言うから。
あたしの運動音痴っぷりを彼に知られるなんて、考えるだけで恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
だから予報で大雨だって聞いたときはすごく嬉しかった。サッカーの授業だから、グラウンドが使えないなら延期だ。そうなると合同授業もなくなるかな、とも思っていた。それなのに。

準備を終えてもなんとなく立ち上がる気になれず、そのまま床に倒れこんだ。
と同時に、部屋の向こうから母の呼ぶ声がする。

「……行くかぁ」

憎いほどの快晴があたしを出迎える。
今からでも土砂降りにならないかな。あたしの心みたいに。

4/12/2023, 10:19:10 PM

 「同じ空で繋がっている」なんてものは嘘だ、と、キャリーケースを引きずりながら嘆息した。
 住み慣れた辺鄙な田舎から、ビルがひしめく都会へ。テレビの中をのぞき込んで何度も見た光景を、テレビの中に入り込んだかのようにまざまざと見せつけられる。

 私は今日からこの街で暮らすのだ。
 地元では叶えられない夢を掴むために。

 だから怯んじゃいられない。
 首を横にぶんぶんと振って、コンクリートの大地を踏みしめた。
 

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