君が見た景色は、すべてが夏の色。
この地に生まれ、短い時を過ごし、再び土に還る。
夏の盛りを声高らかに響かせて、仲間達とともに命の灯火が燃え尽きるまで。
ほんの短いひと夏の記憶。
君が見た景色は、次の命に引き継がれてゆく。
命の限りに鳴き続けた、真夏の太陽のもとで。
目的など無い。
喜びはこの音にかき消され。
ただ、命を燃やしてこの季節を通り過ぎるだけ。
君は蝉。
夏に生きる命。
君が見た景色は、すべてが夏の色。
言葉にならないものを、言葉にするために人は考える。
言葉にしないと、伝えたいことが伝わらないから。
でも、言葉にならないんだから仕方がない。
モヤモヤとしたものを心に抱えたまま、遠ざかってゆく君を見つめている。
愛してるとか、大切だとか、離したくないだとか。
強く激しい想いなら、伝わるんじゃないかと期待した。
だけど、僕の心の中の嵐と、君の平穏な日常はリンクしない。
そのギャップが大きすぎて、言葉にするのも憚られる。
だから僕は、黙ってここに立ち尽くしている。
夜になって、君からメッセージが届いた。
「全部、伝わってるよ」
最後には❤マーク。
嬉しくて、嬉しくて、言葉にならない。
❤マークは、言葉にならないほど嬉しいんだ。
だから、頑張って言葉にして、文章にして、こうして書き連ねる。
想いを伝えるために。
書く習慣を身につけるために。
言葉にならないもの、いや、言葉にしづらいものを言葉にするとしたら、これを脱線と言う。
もしくは、逃避、か。
いずれにせよ、言葉にならないんだから、もうこれ以上伝えようがない。
始まりはカッコよくいこうと思ったんだけど、書いてる最中に先が見えなくなってきた。
こんなのは日常茶飯事。
さて、夏休みも残り4日。
ずっと待ちわびてきた休みだが、気付けば半分を終えてしまっている。
悲しくて、悲しくて、言葉にならない。
だからせめて、❤をください。
祭り囃子。提灯の灯り。
神社の境内で、友達と怪談話。
林の奥の小さな祠。
その裏側に、女の子がうずくまっていて、「どうしたの?」と声を掛けると、鎌を持って追いかけてくる。
なんて理不尽。心配してやってるのに。
誰かが、行ってみようと言い出す。
怖がりなあいつも、皆の前だから虚勢を張って。
祭り囃子が遠くなる。
辺りは暗闇に包まれて。
林の中を進むと、小さな祠が見えてきた。
ホントにあったぞ、誰かが囁く。
女の子がいたらどうするんだよ、あいつが震え声で言う。
いるわけないだろ、僕があいつの背中を押す。
あいつは悲鳴を上げて、来た道を走って戻っていった。
その後ろを、鎌を持った女の子が追いかけていった。
真夏の記憶。
あれから、あいつは変わってしまった。
あんなに仲良くやってたのに、もう口もきいてくれない。
まあ、仕方ないか。命の危機を感じたんだろう。
夏が終わり、秋が来ても、僕達は疎遠なまま、気付けばいつしか大人になった。
今ではもう、あの林も伐採されて、駐車場に姿を変えている。
鎌を持った女の子は、今頃どこにいるんだろう。
あのままあいつを追いかけて、今もあいつとともにいるんだろうか。
たとえば、あいつと僕が、最初から仲良くなんかなかったとか。
一緒に祭りにも行かず、怪談話もせず、背中も押さず、女の子に追いかけられることもなく。
ただ、あの夏の夜の記憶だけがフェイクで、仲良くふざけあった思い出もすべて自分が作り出したもので。
今になって、そんな風にも思う。
すべてがおぼろげな、真夏の記憶。
まずは、「リロ&スティッチ」を思い出した。
出てくる度にアイスを落とすおじさんがいたっけな。
イイ味出してた。
彼のように、メインキャラではなくとも、印象に残るキャストっているよな。
トトロのおばあちゃんとか、Q太郎の小池さんとか。
作品が古いのは致し方ないが、愛すべきサブキャラはいつの時代にも存在する。
誰かの人生において、重要ではないが彩りを増してくれる存在。
だけど、アイスを落とすおじさんにも、トトロのおばあちゃんにも、小池さんにも、それぞれの人生があるわけで、その人生においては彼らがメインキャストなわけで。
こぼれたアイスクリームに嘆いていたら、そこを通りかかった綺麗な女性に声をかけられて、二人でアイスを買って砂浜で一緒に食べることになるかもしれない。
アロハなハワイのビーチでなら、そんなこともあっていいじゃないか。
こぼれたアイスクリームが恋のはじまり、なんてね。
まあ、実際に、買ったばかりのアイスクリームを落としてしまったら、それはかなりなダメージを受けそう。
そのままにして立ち去るのも迷惑になるから、掃除しなきゃとも思うし、何か、人生の大切なひとかけらを失ってしまった感じ。
大切なひとかけらが、溶けてゆく…。
それをただ、切ない表情で見つめるおじさんは、なかなかの演技派だったんだな。
やっぱり、愛すべきサブキャラ。
ネットで調べたら、実写版の「リロ&スティッチ」で、アイスを落とすおじさんを演じた俳優さんは、先日亡くなっていた。
彼は彼の人生を生きて、終えたんだな。
彼がメインキャストである人生を。
御冥福をお祈りします。
やさしさなんて、愛じゃない。
人にやさしくできる自分に酔いしれたいだけ。
やさしくされた人からの感謝に溺れたいだけ。
つまりは、承認欲求。
もしくは、仕事として、お金のため。
やさしさなんて、そんなもんなんだよ。
ビルの屋上で、タバコを吹かしながらアイツはそう言った。
何があったのかは聞かなかった。
聞いたところで、アイツの心の傷は癒えやしない。
そんなやさしさを必要としていない。
そうだな、と頷いて、アイツと同じ遠い空を見つめる。
青空の向こうで、小さな雨雲が生まれようとしていた。
だけどさ、お前が今日、ここに来てくれたことには、ホントに感謝してる。
そのやさしさは、本物だって知ってるから。
都合イイかもしれないけど、そうでも思わないとやりきれなくてさ。
だってお前、何かあったのか全然聞かないだろ。
そんなんじゃ、承認欲求満たせないだろ。
それでもずっとそばにいてくれる。
ありがとな。
アイツは、俺からの友情を信じてる。
これは本当は、友情なんかじゃないのに。
承認欲求でもない。
アイツの家族がアイツを捨てて、ひとりぼっちになったことはとうに知っている。
今さら聞きたいことなんてない。
ただ、一緒にいたいと思っただけ。
これは、やさしさや同情ではなく、アイツの言う通り、愛なのかもしれない。
青空の向こうで、小さな雨雲が生まれようとしていた。