祭り囃子。提灯の灯り。
神社の境内で、友達と怪談話。
林の奥の小さな祠。
その裏側に、女の子がうずくまっていて、「どうしたの?」と声を掛けると、鎌を持って追いかけてくる。
なんて理不尽。心配してやってるのに。
誰かが、行ってみようと言い出す。
怖がりなあいつも、皆の前だから虚勢を張って。
祭り囃子が遠くなる。
辺りは暗闇に包まれて。
林の中を進むと、小さな祠が見えてきた。
ホントにあったぞ、誰かが囁く。
女の子がいたらどうするんだよ、あいつが震え声で言う。
いるわけないだろ、僕があいつの背中を押す。
あいつは悲鳴を上げて、来た道を走って戻っていった。
その後ろを、鎌を持った女の子が追いかけていった。
真夏の記憶。
あれから、あいつは変わってしまった。
あんなに仲良くやってたのに、もう口もきいてくれない。
まあ、仕方ないか。命の危機を感じたんだろう。
夏が終わり、秋が来ても、僕達は疎遠なまま、気付けばいつしか大人になった。
今ではもう、あの林も伐採されて、駐車場に姿を変えている。
鎌を持った女の子は、今頃どこにいるんだろう。
あのままあいつを追いかけて、今もあいつとともにいるんだろうか。
たとえば、あいつと僕が、最初から仲良くなんかなかったとか。
一緒に祭りにも行かず、怪談話もせず、背中も押さず、女の子に追いかけられることもなく。
ただ、あの夏の夜の記憶だけがフェイクで、仲良くふざけあった思い出もすべて自分が作り出したもので。
今になって、そんな風にも思う。
すべてがおぼろげな、真夏の記憶。
8/13/2025, 3:41:01 AM