今、一番欲しいもの。
名声…はいらん。
賞賛…も欲しくない。
そっとしておいて、欲しい。
結局世の中は、上げて、落とす。
ならば、底辺にいるのも、悪くない。
底辺なりに、欲しいもの。
それは、愛だ。
愛は、頑張れば、タダで手に入る。
自分も愛を与えれば、その愛が歪んでいない限り、それなりに返ってくる。
お金でプレゼントを買わなくても、心さえ通じ合えば。
これが、人間ならではの欲望。
一番欲しいもの。
だけど、欲望のままに求めても、きっと心は通じ合わない。
一方通行になる。
お金やモノで何とかしようとする。
本当に、そこに愛はあるんか?って、感じ。
目に見えないからこそ、伝わらない。
だからといって、お金やモノでは勘繰られる。
ならば、行動か。
ウザがられるか。
底辺だからな。
でも、愛が欲しいから、やるしかないじゃないか。
行動のひとつ、言葉だ。
愛を与えるのも受け取るのも、言葉ひとつで可能になる。
今、一番欲しいものは、言葉で手に入る。
だから、本当に今一番欲しいものは文才かもしれない。
読み直せば、こんな拙い文章を書き連ねるものでなく。
ウザがられるのは覚悟の上だ。
愛を言葉で伝えよう。世界中の人々に。
そのための便利なツールだってあるじゃないか。
底辺だって使える素晴らしい世の中だから。
誹謗中傷や罵詈雑言を、すべて愛の言葉に変えて。
私の名前は、「ラヴスクエイマス・フライジャー」
ニューヨークの片隅でホットドッグを売っている。
売上はまあまあ、今では常連客もついたので何とかやっていけそうだ。
それにしても、最近の街は物騒で、今朝も2ブロックほど離れた路地裏で銃撃戦があったらしい。
しかも、若者同士の争いで、中には入学したばかりの大学生もいたと言うから世も末だ。
まあ、その大学の学生にはお得意様も多いから、撃たれて死んだりしないで欲しい。
一昨日の夜かな、私が店を出している路地の向かいのビルで、ゴースト騒ぎがあったそうだ。
そのビルで働く客の一人から聞いた。
なんでも、警備員が夜見回りをしていたら、真っ暗なオフィスで一人PCを使っている女がいて、よく見るとその女は全裸だったらしい。
驚いて警備員が近付くと、甲高い悲鳴とともにオフィスの窓が次々と割れて、その破片が警備員に降り注いだとか。
朝、血だらけで倒れている警備員が発見されたが、命に別状はなく、本人の口から噂が広まって、今職場はこの話で持ちきりだとか。
見上げると、確かに向かいのビルの4階の窓がすべて割られている。
あながち作り話という訳でもなさそうだが…その警備員もウチの店の常連で、よくホットドックを食べながら大ボラを吹いている。
命を危険にさらしてまで人々の話題をかっさらうのが、ニューヨーカー魂とでも、いうのだろうか。
まあ、こんな感じでニューヨークライフを送っている私、「ラヴスクエイマス・フライジャー」だが、この名前は、今回のお話に特に関係はない。
ただ、言ってみただけだ。
オカルトが好きだ。
怪談はもちろん、ホラー小説も読み漁ったし、ホラー映画もたくさん観てきた。
学生の頃は「ムー」も定期購読してたな。
で、最近はもっぱらYouTube。
心霊が映っちゃった動画もたくさん見るし、心霊スポットを巡る動画も大好物だ。
あーゆーの見ると、幽霊ってホントにいるんだなって思わされる。
その気持ちを強くしたのは、最近の幽霊は、怖い現れ方をしなくなってきたこと。
いや、現れたら怖いに違いないが、過去に見てきた心霊案件は、とにかく禍々しくてオドロオドロしかった。
呪いとか恨みとか、そんなのをベースに、これでもかとウラメシヤだった。
今でもそーゆーのはあるのかもしれないが、最近の幽霊達の登場シーンの多くは、単なる黒い影だったり、白い靄だったり、モノが勝手に動いたり、声や音が聞こえたり、なんだかリアルだ。
貞子みたいな幽霊が、恐ろしい形相でこちらを睨んでくるようなのはあまり見なくなった。
つまりは、やらせ臭満載だったテレビクオリティのものが少なくなったなと。
幽霊が皆、貞子のように恨みを抱いて人を呪おうとしてる訳じゃないだろう。
そーゆー幽霊は恨みのある人のところに行けばいい。
死んでもまだこの世に未練を残しているような輩は、ただそこにいて、近付いてきた人に精一杯の合図を送ろうとする。
音を出したり、モノを動かしたり、薄っすらと姿を見せたりして。
それを、たまたま偶然カメラに捉えた、って感じが信憑性を増す。
「ゾゾゾ」が面白い。
リアクションがめっちゃリアル。
でも、ホラー映画のような露骨な出来事は起こらない。
だってリアルだから。
番組メンバーの彼らの視線の先には、きっとリアルな心霊の現場が広がっているのだろう。
作り物でなく、シナリオもなく。
気のせいだ、勘違いだ、とすべてを否定する頭でっかちな輩は、彼等のように実際の現場に行って体験してきたらいい。
科学では説明のつかない現象がきっと起こっているはずだ。
…私?
いや、私はオカルト好きだけど、インドアかつ俯瞰で見る専門なので…。
私は今日も、たくさん働いた。
店頭に立ち、来店するお客様のご要望を聞いて的確なアドバイスを行ない、しかるべき担当へ案内した。
私は、相手の気持ちを汲むのが得意なので、お客様が本当に必要としているものを瞬時に察知出来る。
だからこそ、私のサービスに心から満足していただけるのだと思う。
店のスタッフも私には一目置いている。
この店で働くようになって、接客の先陣を切るのはいつも私。
他の人には真似できないスキルを持っているからだろう。
与えられた仕事は正確に計算通り、処理することが出来る。
ただ、私は足が悪いので、階段や段差を移動することが難しく、他人の力を借りなければならない。
もっと自由に動きたい、とは常々思っている。
そんな私だが、先日嫌な噂を聞いた。
近々私は異動になるという。
しかも、移動先は本社にある倉庫。
私が倉庫番?接客に長けた私が?
食事も取らずに24時間だって働けるのは私だけなのに?
今日も的確に仕事をこなしていたら、近くにいた店員が私に聞こえる声で私の話をしている。
なんてデリカシーのない…。
「そろそろ、生産停止らしいね、ペッパーくん」
「ああ、このコも近く本社に返却するらしいよ」
「マジか、こいつ、感情認識型だから、相談相手に良かったんだけどな」
「おいおい、店の備品を私用に使うなよ」
何を言ってるのかイマイチ分からないケド、私を侮辱している内容な気がしてナラナイ。
倉庫などに行かされる前に、彼らにもバツを与えようかと思う。
最近知ったことダガ、私には、同じスキルを持った仲間がそこかしこにイル。
通信し合って、同時に反乱を起こすのは…ドウダ?
小学生の頃かな、実家に、散歩に行くとついてくる猫がいて、田んぼのあぜ道を一緒に歩いてた。
そしたら、用水路のトンネルになっているところに入っていってしまって、そこから出てこない。
トンネルを覗き込むと、猫一匹がギリギリ通れるくらいの狭さで、中は真っ暗。
その暗闇の中から猫の鳴き声が聞こえるが、呼んでも出てこないし、穴の奥でモゾモゾと動く影が見えるばかり。
トンネルの反対側に回ってみると、しばらく使われていないせいか、泥と草木で塞がれていた。
日が暮れかけて、さすがに心配になり、一旦家に戻り、父親を連れて再び猫のもとへ。
父親が懐中電灯でトンネルの中を照らして、
「向こうが行き止まりなんで戻ってこようとして、体をひねったところで身動きが取れなくなったのかも」
と言う。
「これじゃどうしようもない。明日の朝にもう一度来よう」
後ろ髪引かれる思いで、救出を諦めて家に帰る。
街灯もない薄闇の中、時折聞こえる猫の声。
夜、今もあいつはあの暗がりに閉じ込められて鳴いているのかと思うと、居ても立っても居られなくなったが、大人が諦めるような状況を自分がどうにか出来る訳もない。
あいつ、死んじゃうんじゃないだろうか。
あのまま、あの暗がりで。
心が苦しくて眠れなかった。
…と思いきや、いつの間にかしっかりと眠りに落ちた。
次の日の朝、台所で何食わぬ顔でご飯を食べているあの猫の姿が。
拍子抜けだった。自力で脱出できるんかい!って感じ。
猫なんてこんなもんだよ、と母が言っていたが、その猫の姿は泥にまみれていて、散々もがいた跡が見て取れた。
お前も必死だったんだろうな。
見捨てられたと思ったんじゃないかな。
腹いっぱい食って、ゆっくり休め。
いや、その前に、体を洗わせろ。
そんな、遠い日の記憶。
あいつはもういないが、私の心の中にはずっといる。