Ryu

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小学生の頃かな、実家に、散歩に行くとついてくる猫がいて、田んぼのあぜ道を一緒に歩いてた。
そしたら、用水路のトンネルになっているところに入っていってしまって、そこから出てこない。
トンネルを覗き込むと、猫一匹がギリギリ通れるくらいの狭さで、中は真っ暗。
その暗闇の中から猫の鳴き声が聞こえるが、呼んでも出てこないし、穴の奥でモゾモゾと動く影が見えるばかり。
トンネルの反対側に回ってみると、しばらく使われていないせいか、泥と草木で塞がれていた。

日が暮れかけて、さすがに心配になり、一旦家に戻り、父親を連れて再び猫のもとへ。
父親が懐中電灯でトンネルの中を照らして、
「向こうが行き止まりなんで戻ってこようとして、体をひねったところで身動きが取れなくなったのかも」
と言う。
「これじゃどうしようもない。明日の朝にもう一度来よう」
後ろ髪引かれる思いで、救出を諦めて家に帰る。
街灯もない薄闇の中、時折聞こえる猫の声。

夜、今もあいつはあの暗がりに閉じ込められて鳴いているのかと思うと、居ても立っても居られなくなったが、大人が諦めるような状況を自分がどうにか出来る訳もない。
あいつ、死んじゃうんじゃないだろうか。
あのまま、あの暗がりで。
心が苦しくて眠れなかった。

…と思いきや、いつの間にかしっかりと眠りに落ちた。

次の日の朝、台所で何食わぬ顔でご飯を食べているあの猫の姿が。
拍子抜けだった。自力で脱出できるんかい!って感じ。
猫なんてこんなもんだよ、と母が言っていたが、その猫の姿は泥にまみれていて、散々もがいた跡が見て取れた。
お前も必死だったんだろうな。
見捨てられたと思ったんじゃないかな。
腹いっぱい食って、ゆっくり休め。
いや、その前に、体を洗わせろ。

そんな、遠い日の記憶。
あいつはもういないが、私の心の中にはずっといる。

7/17/2024, 12:09:34 PM