Ryu

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3/8/2024, 5:58:35 PM

お金より大事なものがあるかどうかなんて、ホント人によりけりなんだろうなと思ってる。
大切な人と撮った写真や動画、もらった手紙など、お金では買えない世界にたったひとつのものを、いくら大金を積まれても手放せない人もいれば、たとえ親の形見であっても、はした金で売り飛ばせる人もいる。
何が一番大切か、その基準が人によって大きく違うんだと思う。

生まれた時から二十年近く住んだ実家が、新築のために取り壊されると聞いて、わざわざ二時間かけて帰郷して、作業を手伝うとともに、その壊されてゆく様子を余すところ無くビデオに録画して、今でも大事に持っている私。
中学の頃、自分の部屋の壁の梁に油性マジックで大きく自分の名前を書いて、親父にこっぴどく叱られた。
その梁がパワーショベルで壊されてゆく。
その様を、切ない思いで見つめながらビデオを回していた。
学生時代の色んな思いが詰まった部屋が、家が、瓦礫と化してゆく。

このビデオは、たとえ震災が起きても持って逃げようと思っている。本気だ。
まあ、家族で撮った思い出のビデオと一緒に、だ。
もう二度と、あの家に、あの部屋に、戻ることは叶わないから。
せめて映像だけでも、残しておきたい。

実家取り壊しの当日、当時結婚して実家から車で10分のところに住んでいた姉が姿を見せない。
いよいよ解体が始まる、というところで電話をして、
「もう今から実家が壊されるけど、来ないの?」
と聞くと、
「え?なんか行く必要ある?人手は足りてるでしょ?」
と返された。
そーゆーことか。
同じ境遇で育って、同じ思い出を共有してるはずの姉貴でさえ、こんなにも思い入れが違う。
そして姉は言った。
「新しい家が建ったら見に行くよ」
…そーですよね。楽しみなのはそっちですよね。

お金より大事なもの。
人によっては、かけがえのない過去の思い出だったり、家族や友達、恋人やペットの猫だったり。
あるいは、お金さえあれば何だって手に入る、と映画の悪役みたいなセリフを吐く人もいるだろう。
でも、大切なのは生きること。
生きてるからこそ、自分にとって何が一番大切か、その答えを模索することが出来る。
その答えは人それぞれだけど。

だから、私の答えは、命。
当たり前でゴメンだけど、その命すら、大事にしない人もいるからね。
ホント、人それぞれなんだな。

3/7/2024, 3:36:59 PM

ある日の放課後、友達と校内で始めたかくれんぼがやけに盛り上がって、人気が消えた校舎には夕闇が迫ってきていた。

じゃあ、これで最後にしようか、と薄闇の中で誰かが言って、私達は隠れる場所を探して走り出す。ほどなく、音楽室へ続く階段の踊り場に置かれた用具箱を見つけ、体を縮めて何とかその中に身を隠す。

完全なる暗闇の中、ふと、隣に誰かがいる事に気付いた。だれ?と聞くと、りさ、と答える。友達の名前を聞いて安心するが、この暗闇には、二人入れるだけのスペースがあっただろうか?

ここなら見つからないかな?と、りさが聞いてくる。
声出しちゃダメだよ。聞こえちゃうよ。
そうだけど、でもさ、なんか怖くない?
怖いって何が?
・・・こんな所に、箱なんてあったっけ?

階段をゆっくりと下りてくる足音。
鬼が来たよ。りさの声。
一歩、一歩、鬼が近付いてくる。
私の耳元で、吐息のようにりさが囁く。
・・・ねえ、鬼って誰だっけ?

私達は、二人だけでかくれんぼを始めたはず。
一人が隠れて、もう一人が鬼だった。
そんな他愛無い遊びだったはずなのに。
叫び出しそうなのを懸命に堪えて、息を潜める。
思いもよらぬほど近くで、足音が止まった。

こんな時間に・・・誰か居るの?
担任の川村先生の声だ。
慌てて箱から出ようとするが、りさの手が私の腕をつかんで離さない。それだけじゃなく、何かが私の首に巻き付いている。
これはきっと・・・りさの髪の毛だ。

あれは、せんせい、じゃ、ないよ。
楽しそうな、含み笑いと共に、りさの声がする。

いつのまにか、暗闇に目が慣れてきた。りさの顔が、吐息がかかるほど私の顔近くに寄せられて、耳元で囁く。
あれは、せんせい、じゃ、ない。

私は気が狂いそうになって、箱から飛び出した。

・・・みぃぃつけた。先生の声。

朧月夜は更けてゆき、私は家に帰れない。

*****************************************

次の日の放課後。
担任の川村先生から、階段の踊り場に落ちていたと言ってハンカチを渡された。見たこともない柄のハンカチ。片隅に名前が書かれていて、みなづき りさ、とある。

ごめんね。朝のうちに渡そうと思ったんだけど、どうしてもこの名前の持ち主が思い出せなくて。
あなただったのね。・・・今夜の鬼は。

そう言って、川村先生は笑った。
夕闇迫る二人だけの教室で、昨夜の鬼が笑った。

あれは、せんせい、じゃ、ない。

3/6/2024, 11:59:10 PM

お前が俺のために先輩に殴られることを受け入れた時から、俺達の絆は固く結ばれている。

俺が野球部の部費を盗んで、そのお金でお前と一緒にラーメンを食べたことがバレて、普段から素行の悪いお前が疑われたのは、当然ちゃ当然な成り行きだった。
お前は先輩に呼び出され、それが人一倍お前を嫌っている先輩だったこともあって、端から弁解を聞くつもりなどなかったようだ。

逆に俺はその先輩から好かれていて、疑われない自信があった。
いや、もし疑われても、誰かに脅されてやったと言えば、きっとそいつに仕返ししてくれただろう。
先輩は、俺の姉貴と付き合っていて、ベタ惚れだった。
先輩の方にこそ、俺に嫌われたくない理由があるってことだ。
だから…目の前で先輩に殴られるお前を見て、当然ちゃ当然な成り行きだと思ったんだ。

絆の言葉の由来は、犬などを繋ぐ手綱だそーだ。
だからか、俺はお前に強い絆を感じている。
お前を手放さなければ、俺はきっと自由に楽しく生きられる。
切っても切れない絆だ。
それは、俺が担うはずだったポジションを、後から入部したお前が奪ったあの時から始まっている。

殴られたお前は、俺の隣にやって来て、
「お前は何も言うな」
と、小声で囁いた。
後ろめたさと小さな戸惑いを感じながら、
「分かった」
と、神妙な顔をして頷いた。

2ヶ月後、俺の姉貴は元カレとよりを戻した。
先輩はあっけなくフラれ、後輩への暴力も明るみに出て、退部に追い込まれている。
姉貴の元カレは、お前だった。
それが理由で先輩に嫌われていたわけだが、部の上下関係が無くなった今、お前は先輩に、まるで忖度するつもりもないようだ。
まあ、喧嘩したところで、お前が圧勝することは目に見えている。

俺はといえば、
先輩よりも男らしく、素行は悪いが、俺をかばって守ってくれるお前に、強い絆を感じている。
絆…?いや…
お前を手放さなければ、俺はきっと自由に楽しく生きられる。
切っても切れない絆だ。

最近、姉貴が邪魔だなーと思うようになってきた。
お前が俺のために先輩に殴られることを受け入れた時から、俺達の絆は固く結ばれているのだから。

3/5/2024, 10:10:47 AM

ひなまつり第三夜

違いますよ。
怪物なんか襲って来なかった。
そういえば、お姫様はあの時も、魂を無効化していましたね、今のように。
だからご存じないのでしょうが、ココだけの話、お殿様は官女の一人と恋仲でね。
あの夜も、一年に一度やっと会えると忍んで行ったわけですよ。
そしたら、足を滑らせてひな壇を転げ落ち、床に叩きつけられて首を破損してしまったと。
そーゆーことです。
そもそも、あの生き物は何とも可愛いですよ。
怪物なんかじゃない。

動けなくなっているところを、こちらの娘さんに助けられて、お母様に渡されたと。
娘さん、ひどく悲しんでおられましたね、本当に優しいお人です。
私が同じようになっても、悲しんでくれるのでしょうか。
…え、想いのレベルが違う?
そんな、顔の作りは同じなのに…。

なんか、いろいろと喋りたくなりました。
お殿様はね、官女三人と関係があったんですよ。
ええ、取っ替え引っ替えです。
まったく、てっぺんにいるからってやりたい放題ですな。
そのくせ、お姫様にバレることに怯え、我々に口止め料だと、ひなあられを振る舞いました。
まあ、この家のご主人が買ってきたものですけどね。

我々も、もっとやりたいことやっていいんですかね?
(たまには、お題とまったく違うことを書いてみたり。)
そろそろ、この楽器構成でのお囃子にも飽きてきたところでして。
実はこの間、テレビで見たんですよ。
私達がこれから、目指したいって思う音楽の形。
五人全員の意見が一致しました。

ええ、娘さんが好きなんですよね。
そうそう、ヒゲダンって言ってました。
まあ、我々一人多いですけど、踊りの得意な奴がいましてね。
真ん中で踊らしとけばいいかな、と。

え?
ギター?
ベース?
ドラム?
…何ですか、それ?
太鼓ならいろいろありますけど…。

3/4/2024, 1:23:25 PM

大好きな君に。

ごめんね。
一番大事な夜を、君と過ごせなかった。
他の女性と一緒だったなんて、君はさぞかし腹を立てただろう。
違うんだよ。
彼女が、大ケガを負った僕を治療してくれたんだ。
夜通しね。
首を切られていたから、生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだ。
…分かるだろ?

そりゃ僕だって、一年に一度のあの夜を、皆と過ごしたかった。
大好きな音楽を聴きながらお酒を飲んで、君と一緒にいたかった。
でもね、あの怪物だよ、僕を襲ってきたのは。
あの毛むくじゃらの、爪と牙の鋭い生き物だ。
抗えるわけがないじゃないか。

何とか一命を取り留めたけど、帰り道さえ分からなくて…君はよく僕の居場所が分かったね。
女の勘って…まさか、友達を三人も引き連れて迎えに来るとは。
怖かった…もとい、嬉しかったよ。
また来年まで会えないんじゃないかと思ってたからね。

とゆー訳で、これは決して浮気なんかじゃないんだ。
だって相手は、すでに結婚して夫がいる身だからね。
いや、それを浮気というって…確かにそうだけど…。
君の方が若くて美しいのに、他人の奥さんに手を出したりしないって。

え、その娘さんが僕に惹かれてる…?
いやいや、ひなまつりでお祝いされる娘さんって、いくつだと思ってんの。

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