Ryu

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ある日の放課後、友達と校内で始めたかくれんぼがやけに盛り上がって、人気が消えた校舎には夕闇が迫ってきていた。

じゃあ、これで最後にしようか、と薄闇の中で誰かが言って、私達は隠れる場所を探して走り出す。ほどなく、音楽室へ続く階段の踊り場に置かれた用具箱を見つけ、体を縮めて何とかその中に身を隠す。

完全なる暗闇の中、ふと、隣に誰かがいる事に気付いた。だれ?と聞くと、りさ、と答える。友達の名前を聞いて安心するが、この暗闇には、二人入れるだけのスペースがあっただろうか?

ここなら見つからないかな?と、りさが聞いてくる。
声出しちゃダメだよ。聞こえちゃうよ。
そうだけど、でもさ、なんか怖くない?
怖いって何が?
・・・こんな所に、箱なんてあったっけ?

階段をゆっくりと下りてくる足音。
鬼が来たよ。りさの声。
一歩、一歩、鬼が近付いてくる。
私の耳元で、吐息のようにりさが囁く。
・・・ねえ、鬼って誰だっけ?

私達は、二人だけでかくれんぼを始めたはず。
一人が隠れて、もう一人が鬼だった。
そんな他愛無い遊びだったはずなのに。
叫び出しそうなのを懸命に堪えて、息を潜める。
思いもよらぬほど近くで、足音が止まった。

こんな時間に・・・誰か居るの?
担任の川村先生の声だ。
慌てて箱から出ようとするが、りさの手が私の腕をつかんで離さない。それだけじゃなく、何かが私の首に巻き付いている。
これはきっと・・・りさの髪の毛だ。

あれは、せんせい、じゃ、ないよ。
楽しそうな、含み笑いと共に、りさの声がする。

いつのまにか、暗闇に目が慣れてきた。りさの顔が、吐息がかかるほど私の顔近くに寄せられて、耳元で囁く。
あれは、せんせい、じゃ、ない。

私は気が狂いそうになって、箱から飛び出した。

・・・みぃぃつけた。先生の声。

朧月夜は更けてゆき、私は家に帰れない。

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次の日の放課後。
担任の川村先生から、階段の踊り場に落ちていたと言ってハンカチを渡された。見たこともない柄のハンカチ。片隅に名前が書かれていて、みなづき りさ、とある。

ごめんね。朝のうちに渡そうと思ったんだけど、どうしてもこの名前の持ち主が思い出せなくて。
あなただったのね。・・・今夜の鬼は。

そう言って、川村先生は笑った。
夕闇迫る二人だけの教室で、昨夜の鬼が笑った。

あれは、せんせい、じゃ、ない。

3/7/2024, 3:36:59 PM