Kiss
こんなに彼を想ってるのに、彼はいっつもこっちを向いてくれない。
毎日毎日彼とキスをしてるのに、彼との距離は縮まらない。
でも今日は頑張ってアタックするんだ
「頑張るね。いってきます」
そう言って私は今日も隠し撮った彼の写真にキスをした
旅路の果てに
色んな景色を見て色んな経験をしてきた。
もちろんその場その時の感動は素晴らしい物だ。
でもそんな体験をしてきた後の、我が家のおんぼろ布団に包まれて自分の家の空気を思い切り吸い込む時間が1番好きかもしれない
逆光
君が眩しすぎるから
君の光に当てられた僕は、きっと黒く塗りつぶされたシルエットしか書かれないモブ
でもそのくらいが心地よい
メインキャラの君の事を見つめていられるなら喜んでモブになろう
タイムマシーン
我が家には変な遊びがある。
誰かが「どこから来たの?」と聞いたら「1994年2月10日!」みたいな感じで現在の日付を答えるだけのゲーム。
母が「タイムマシーンが出来たら、きっと自己紹介の時も○○年から来ました!みたいに言うのかしら?練習しとかないとね」なんて言っで始まったこのゲーム。
幼かった私は秘密の合言葉って感じでワクワクして大好きなゲームだった。
そんな私も今では成人し働いている。
父はもう他界してしまった。母は…
「ちょっと!あなた誰よ!?」
「あ、お母さん…」
そう、母は認知症になってしまったのだ。
昔の記憶で止まっているらしく、「私の娘は小学校に通ってるのよ?あなたが娘なわけ無いじゃない!」なんて言って話が通じない。
「私だよお母さん。」
「誰よ!どこから来たの!?」
毎日何者なのかどこから来たのか聞かれる生活。でもこのゲームがあるからほんの少しだけ心が楽
「2024年1月23日から来ました」
私は毎日未来人になる
特別な夜
暖かいご飯、雨風しのげるお家、家族みんなで仲良く喋る時間。そんな日々が特別で大切
なんて言ってみたかった。もう何日も貰えてないご飯、いつも帰ることを禁止されてるお家、殴ってくるパパ。何も変わらないいつもの夜
今日はクリスマス?というイベントがあるらしく街の人達は皆にこにこしている。
いつもの場所でいつもの商品を売っている私にはあまり関係ない話だ。
でも、皆がご機嫌な今日なら商品を買って貰えるかもしれない。そう考えた私は声を張り上げ「マッチ入りませんか?」と問い掛ける
私が声をかけると皆笑顔を無くし「要らない」と断る様に早足で去っていく
今日も駄目みたいだ。
寒さと空腹に耐えきれず、今日も幻に逃げる。何度も何度も幸せな夢を見るけれど、何度も何度もその幸せは消え残酷な現実だけが残る
小さな星が流れる
現実に残されたのは痩せ細った少女の死体とマッチの燃えカスだけだった。
少女が死んでしまった特別な夜。
少女が死んでしまっただけのいつもの夜。