未知亜

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1/13/2026, 9:57:08 AM

 ありがとうって満面の笑みであなたが抱きついてきて、腕のやり場ってやつにあたしは初めて困り切ってしまった。鼻先に香る慣れたコロンが頭の芯を痺れさせる。親が子どもにするよりも軽いハグ。ひとりになったあたしが多分いく日も反芻するだろうハグ。

 心の中で願ってから思い知る。到底そうできない時にだけ、唱える言葉じゃないかと。コートの上からあたしはあなたを抱き締め返す。可笑しなあきらめみたいなものをこの腕にぎゅっと籠めた。

『ずっとこのまま』

1/12/2026, 9:50:25 AM

 短くした髪には、まわりじゅうみんな気付いてくれた。
「一気に切ったねえ」
「可愛い」
「短いのも似合ってるよ」
 とってつけたような誉め言葉が空々しい。私が髪を切った理由など、たぶんクラスメイト全員知ってる。予想通りの後悔と共に、私は返事をする。
「ずっと切りたかったんだー。さっぱりしたよー」
 曖昧に笑うクラスメイトの中で君と目が合う。
「寒くない?」
 すっかり友達の顔が尋ねる。

 寒いに決まってんだろ! 誰のせいだと思ってんだ大馬鹿野郎ッ!

 なんてことを叫ぶ代わりに、
「寒ーい」
 とおどけて、私は自席に着いた。


『寒さが身に染みて』

1/11/2026, 9:56:18 AM


 飲んだこと無いなんて、嘘でしょ?

 会話が途切れた隙にすっかり赤くなった顔へ尋ねたら、半個室の薄暗い明かりの下でジョッキ片手にきみが笑った。

『20歳』


1月12日(月祝)午前 11:00~
東京都立産業貿易センター浜松町館2階南で開催の「第3回もじのイチ」に出展します。
こちらで書いてきた短編を再編し本にまとめました。無料配布もあります。入場無料です。
参加される方いらしたら、ご一緒に楽しみましょー!
【イ18】如月堂 日下めぐる名義

1/10/2026, 9:06:40 AM

「ねえねえ、昔のアニメにこんなのなかった?」
 鞄から取り出した円柱っぽいなにかを美咲が空に掲げる。
「先っぽにこういうモチーフ? が付いててさ、変身するやつ」
「あー」
 手にしたなにかは黒い影になって、空に浮かぶ細く丸い縁に寄り添う。
「なによそれ」
「え、メガネケース」
 えへへと振り向いたあなたの頭上に、輝く三日月。


『三日月』

1/9/2026, 9:57:29 AM

 わたしには、この世界が色彩に見えるよ。
 来る途中で読み終わった本について話すあたしに、君はそんなようなことを言った。

 あたしの頭に、君と一緒に観た絵画が浮かぶ。シャガールのブルー、魁夷のグリーン。惹かれる色彩は君とどこか似ていた。

 長い映画を見終わって、暗い劇場から外に出た瞬間の、景色が輪郭を際立たせる感じ。真夏のプールから見上げた空の眩しさ。あたしにとって色彩は、たぶんなにか特別の響きがある。

 それ以上なにも言わず、君は薄く微笑んだ。あの時君に線を引かれた。色とりどりの綺麗な線を。


『色とりどり』

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