そうして私たちは言葉を失くし
薄っぺらな板を挟んで黙り込む
ついさっきまであれもこれもと
話したいことがあふれてたのに
掛け違えてしまっただけなら
最初のズレを探せばいいんだ
指先でさかのぼる会話履歴を
あなたの最新の発言が覆った
ハッキリ言えなかったけど、
実はずっと苦しかったの。
誰よりも近い場所にいて
分かり合えると思ってた
たぶんだけど私あなたと
上手く仲間になれなくて
……ごめんね。
『仲間になれなくて』
あっけにとられた僕に君は風のように笑った。
二度は言わないよー。
伸ばされた手が僕の右手からアイスをさらう。
あー。夏って感じする。
誤魔化すみたいに齧り付いた唇の端のクリームが、
まるで虫みたいに僕を引き寄せて。
口の端から君の味がこぼれる。
『こぼれたアイスクリーム』
あなたの後悔が少ない方に進みなさい。
そう、あなたは笑った。
あまり先のことを考えすぎず、嫌だなと思う方には行かないこと。
意外とそれだけで、目の前が開けることもあるよ。
けれど、
やさしさなんていまはいらない。
『やさしさなんて』
目が痛い。
週末から何度泣いたのか、自分でも思い出せなかった。
ドライアイ気味で買ったはずの目薬が、机の隅で笑っている気がする。
パソコンを閉じ目を揉んだ。
いろいろ調べて頭がパンクしそうだった。
メッセージの通知音がする。
「いい風が吹いてるよ」
なんて皮肉な表現だろう。
風どころか八方塞がりじゃないか。
窓がカタカタ音を立てた。
いや、違うか。
感じようとすれば、風は必ず吹くのだ。
『風を感じて』
心から安心できる場所なんて、ほんとにあるのかな。
答えを求めるでもない呟きに、
簡単に大丈夫なんてとても言えないし。
君の前を去ると決めた僕に、
何を言えた義理もないけど。
ただ涙をこぼすだけだった君が、
こんなにもしっかりした瞳をしてるから。
今いる場所も未来の行方も、
君には随分見えている気がしてるから。
その時はたぶん夢じゃない。
『夢じゃない』