未知亜

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6/22/2025, 9:52:24 AM

 好き、嫌い、好き、嫌い……ねえ、知ってる? 花びらの恋占いって必ず『好き』で終わるんですって。花びらの枚数が奇数の花が昔から選ばれるのよね。

 贈った花は受け取って貰えなかったから。去っていく君の背中を目で追って、私は最後の花占いをする。
 好き、嫌い、好き、嫌い。やっぱり、好き。


『好き、嫌い、』『君の背中を追って』

6/21/2025, 9:58:50 AM

ㅤ雨は嫌いだ。

ㅤ幼い頃から、天気の急変する気配が分かった。雨の香りとしか形容しようのないものが漂って、数時間以内に必ず降るのだ。

ㅤ夏の朝、雨は細い糸のように見えた。まだ気温の上がりきらないなか、糸は風に煽られるまま、庭の樹木や花壇のひまわりに消える。僕はただそれを見ていた。誰も起こしに来ないから。ほかに何もしたくないから。

ㅤ君の頬にうっすら残る涙の跡は、あの時の細く白い糸を思い出させる。

ㅤ雨はやはり、嫌いだ。



『糸』『雨の香り、涙の跡』

6/18/2025, 9:55:59 AM

ㅤ気がついたら昼だった。遅刻!ㅤと思って飛び起きてから今日は日曜だったと気づく。だからこんなにビールを飲んで、リビングで寝ちゃったのか。
ㅤ昨夜はなんだかやり切れなくて、空になったら次を開けてずっと何か書いていた。缶の数は十一あったけど、六本目から覚えがない。

ㅤ謝罪の言葉で始まる手紙は愚痴みたいになって、結局書きかけのまま止まっている。いちばん伝えたい言葉はどこにも書かれていなかった。

「バカみたい」
ㅤ便箋をゴミ箱に捨て、空き缶を手に流しへ向かう。
ㅤモヤモヤした気持ちを書き出して整理しようとしたら余計寂しくなったなんて。本当にバカみたい。
ㅤ手紙なんか書いたって、もう届かないのに。


『届かないのに』

6/17/2025, 9:16:27 AM


「ここ、さっき来た……」
 三回目に同じことを呟いて、諦めた私はスマホの地図アプリを開いた。
 スタートとゴールを決め、曲がるたびに目印を確認する。たどり着いたら逆ルートで。それを何度か繰り返せば、初めての道もあなたのもの!

 方向音痴を直すにはという記事を信じ、書かれてある通りのことを試すこと二週間。初めての道どころか、どんな道も私のものにはなってくれない。

 アプリで確認した限りでは、三つ目の角を間違えて以降混乱をきたしたらしい。原因が分かっただけでも進歩かなあ。
 ポンコツな記憶の地図を励まして、私は歩き続ける。夜までにはうちへ帰れますように……!




『記憶の地図』

6/16/2025, 8:48:05 AM

ㅤ見たがっていたDVDと夏物のシャツをカバンに詰めて、流しの下の扉を開けた。奥からひとつのマグカップを取り出す。
ㅤ混ざり合う藍と桃の中に白い点みたいな星が光る、美術館のショップで見つけたカップだ。
ㅤ自分では手の届かない貰い物のハーブティーとか、死ぬほど疲れた夜のご褒美デカフェとか、そんなものだけを飲んだ気がする。

ㅤあの日並んで見た空も、こんな色の夜明けだった。
ㅤこのマグカップのような時間を、この先も共に過ごせたら。もしも君が、そうしたいと思ってくれるなら。

ㅤ幻想的な空の淵を、私はギュッと握り締めた。



『もしも君が』『マグカップ』

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