未知亜

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ㅤ雨は嫌いだ。

ㅤ幼い頃から、天気の急変する気配が分かった。雨の香りとしか形容しようのないものが漂って、数時間以内に必ず降るのだ。

ㅤ夏の朝、雨は細い糸のように見えた。まだ気温の上がりきらないなか、糸は風に煽られるまま、庭の樹木や花壇のひまわりに消える。僕はただそれを見ていた。誰も起こしに来ないから。ほかに何もしたくないから。

ㅤ君の頬にうっすら残る涙の跡は、あの時の細く白い糸を思い出させる。

ㅤ雨はやはり、嫌いだ。



『糸』『雨の香り、涙の跡』

6/21/2025, 9:58:50 AM