私はツルが好きだ。Gruidaeなんて聞こうもんなら鼻血が出る。それくらい好きで、愛してる。
私の家のすぐ向かいには湖がある。日本から出てすぐ移住した先がその家で、当時は壮大さと寒さにずいぶん驚いたが、今では見慣れた光景になってしまった。
その湖にはツルが渡ってくる。そこで見たツルのなんと可愛いこと。ひと目見て、この子たちだ! と思った。その瞬間一羽のツルと目が合った。あのツルも、この人だ! と思ったのだろうか。
あの子とずっと一緒にいられるよう、私も1000年生きよう。たくさん研究して、たくさん生きられるようにしよう。1000年先も一緒にいられ、一緒のお墓に入れるように。
花の青が綺麗だ。ちょっとくらい揚げたらうまいんじゃないか? 味はきっと忘れられなくなるが。
ブランコを漕ぐとどうしてもにやけてしまう。
あの子は今頃裸足だろうか。目の前にある靴がもしあの子のものなら……困ったな。僕はあいにく袋を持ち合わせてはいなかった。でも少し使わせてもらおう。
僕はその靴を持ってすぐそこの公園に向かった。そこには少し小ぶりなブランコがある。僕は持ってきた靴をブランコのちょうど真下に置いた。
靴には持ち主の姿が投影される。靴は自身の上に持ち主の存在を示すものである。今、僕がブランコに座る時、自身が靴の持ち主の投影と重複することになる。まるで相同染色体のように、その姿たちは折り重なって一つの存在を作り出せる。
しかし僕は躊躇ってしまった。僕の世界にあの子を巻き込むのはやめよう、そう思ってしまった。そうこうしてるうちに、裸足でほっつき歩いている一人の少女を見た。どうしたのと聞くと、友だちとの遊びの際に靴を隠されそのままなのだと言う。僕が持っていた靴を差し出すと、少女はこれだと言って笑顔で受け取り会釈した。僕は少女の後ろ姿に手を振った。
僕はまたあの子の靴を探しに歩き出した。
あら、もうこんな所まで来てしまった。最後に君を見たのはほんの三年前だったのにな。お前に、ずっとどこかに行ってりゃ良いのにって言われてからもう三年も旅をしていることになる。石の上にも三年、かあ。そういえば、明日はお前の誕生日だよね。それまでには会えるように頑張るよ。
いなかった。君も遠くへ行ってしまっていたんだね。今はどこにいるの? どこにいるとしても会いに行くよ。噂では一宮市にいるそうだね。大丈夫だよ、誕生日まであと四時間はある。君の旅路の果てまでついていくよ。
僕の思考を届けたい。明日には君は消えてしまうから、僕の考えを理解してほしい。長い間付きまとってしまってごめんね。今、どうしても言わなきゃいけない時間になったんだ。もうすぐ世界が消えてしまう。終わるとか、隕石が衝突するとかじゃない。全部無くなっちゃうんだ。怖いよね……。みんな怯えて家にこもって家族との時間を過ごしているけれど、今くらいは僕の考えをわかってほしくて。だからせめて、受け取ってほしい。ダンボールの中にはきちんと脳漿を詰めているから腐りはしないさ。どのみち、皆んなもう長くはいられないんだし、一度くらいちゃんと見てほしい。ね、僕の考えは面白いから。