カレンダー
もう来年のカレンダーが出ている。夏が終わるかなって時から秋にかけてたくさん並ぶ。
そう広くもない部屋の壁、机、食卓と飾ってある。
書き込めるタイプは予定を書く。スマホに入れておいたSiriが教えてくれるが誰かに見られているような気がしてやめた。それを言ったら利用するなと言う話になる。
手帳も早くから手に入れ秋から切り替える。
たくさん種類があって困る。ノート好き。
何も予定がない空白が多い。それでも格好つけるように机で開ける。去年の手帳予定がぎっちりだったけど、今はそうでもない。
いつか何も書かず開く事もなくなるのだろうか。
文字や文章を書く事が好きなのに。
お気に入りの景色が今月か。あ、閃いた!物語。また中途半端な…筋書きは?
でも、その景色の仲でしばし妄想の世界に浸る。現実逃避かわからないが。私だけの平和な世界。
アラームが鳴って出かける時間。今日の予定 会社。
喪失感
ある日、今までしていた業務から異動を言われた。
文句を言いながらも楽しくやっていたと思ったら。会社員なら当たり前なので仕方ない。嫌なら辞めろ、それは自分のルールとしている。
病気もしたし、危ういと思われたのか、たいした仕事してないと思われたのかもしれない。上層部に。
後任はしっかりやっている。給料も変わらない。
新しい業務は知らない事も多いが、以前より身体は楽だ。
入院した時に会社行かなくてもいい日が来たら?と考えた。いままで何の為に働いていたのか?
これがあったから大きなショックはなかったのかもしれない。割り切れないモヤモヤはある。くだらない虚栄心だ。まだ埋めきれないこの隙間のようなものは何か。
夢中になれるものに依存しているのかもしれない。
会社以外に何がある?
自己満足と化した書き物か?退屈しのぎのUFO番組か?夢中になれる何かが誰かの役に立てばいいのだが。
承認欲求か。ずるいな。
世界にひとつだけ
じゃあ、探しに行ってくる。いつ帰るとも連絡するとも言わず彼は出かけて行った。
待っていろとは言われず、待っているとも言わなかった、そう。そんな仲じゃない。私が心の中だけ。
たまに思う。何を探しに行ったのか。世界にひとつだけのものって、誰が証明するのだろう。
もう何年も経つ。私は望まれて結婚した。側にいておはよう、いってらっしゃい、たたいま、お帰り、お休みが言える、たまにケンカする事が嬉しくて私を望んだ人はそれを喜んでくれる。安心を選んだ私はこの家庭がこの世界にふたつとないものと思う。
誰かや何かと同じは嫌だ。あれもこれも違う。俺は探した。彼女はわかっている。だから、何も言わなかったし言われなかった。ホッとするのと同時に焦りも感じた。
それが何かはわからなかった。何年経ったのか。一人は楽だ。満天の星空を見ていると自分が無数の星の一部になった気持ちになる。
あぁ、世界にひとつだけというのは俺も含めたすべてを言うのかもしれない。ものじゃない。当たり前な事か。
なくして初めてわかる。ひとりだ。星がキレイだ。
胸の鼓動
聴診器を毎日何人にあてるのか数えた事がない。数えたくない。もっと問診や他の事に時間をかけて話さないと見落とすのではないかと内心ドキドキしている。
似たような症状は多い。見分けをつけないと長引いて患者さんが辛い想いをする。そして、クレームと叱責を受けたりと待ち時間まで長くなり更にプレッシャーが…。
目の前にいるのは人で言葉ひとつで気に病んだり恨まれたり喜んだり泣いたりする。疲れてくると機械的になりやすい。それが悪循環になる。何故、近くのクリニックへ行かない。この辺のクリニックは優秀だぞ。最近は紹介状なしは別料金を設定しているが、それでも、一度かかってしまうと近くのクリニックへ行くように言っても予約外で来たりして受付も困ったりする。誤解が起こると大声を出してくる。元気あるじゃないですか…。
聴診器から聞こえるそれぞれの鼓動や脈動はいつも人の身体は不思議だと思わせる。
誰も病気にならない世界をやはり目指したい。
そうしたら、医療従事者はいらなくなるのだるうか?
期待と不安で今日もドキドキする。
きらめき
高級宝飾を前に身震いしそうになる。
これが似合うって言われないといけない。
立ち居振舞い、話し方、所作に礼儀作法、ダンスにって
なぜ、こんな宝石のために努力しないといけないのか?
お祖父様は柔らかな眼差しで私を見ると壁にかかっている肖像画を指し示す。
見てごらん。誰もしっかり前を見ているだろう?役割をわかっているからだよ、
役割?この宝石と何か関係があるのですか?
宝石?関係ない。これは比喩だ。民の暮らしに役に立つ時は金に換える時だろうな。
お前はこれの為に勉強や研鑽をしているのかね?
これに似合う必要があるんですよね?
お祖父様はやれやれと私に首を振った。
宝石など石だ。キレイなだけ。使う人間次第だ。
お前は若い。宝石にない若さの煌めきがある。生命だ。
足りない事を勉強し、研鑽しているのだ。そして、経験が必要だ。人との付き合い方もな。
この先、私の後を継ぐとは宝石には関係ない。
施政者とは孤独で全てを背負う事だ。
楽しみなさい。今を。この先心の糧となり守る為に。
行きなさい。今、思っている事が正しいのか確かめに。
それまで待っていよう。
お祖父様は隠して置いたバッグを見る。
外のきらめきが本物か知る為に、身分を隠して行けと背中を押す。
その瞳はイタズラっ子のように光っていた。