世界にひとつだけ
じゃあ、探しに行ってくる。いつ帰るとも連絡するとも言わず彼は出かけて行った。
待っていろとは言われず、待っているとも言わなかった、そう。そんな仲じゃない。私が心の中だけ。
たまに思う。何を探しに行ったのか。世界にひとつだけのものって、誰が証明するのだろう。
もう何年も経つ。私は望まれて結婚した。側にいておはよう、いってらっしゃい、たたいま、お帰り、お休みが言える、たまにケンカする事が嬉しくて私を望んだ人はそれを喜んでくれる。安心を選んだ私はこの家庭がこの世界にふたつとないものと思う。
誰かや何かと同じは嫌だ。あれもこれも違う。俺は探した。彼女はわかっている。だから、何も言わなかったし言われなかった。ホッとするのと同時に焦りも感じた。
それが何かはわからなかった。何年経ったのか。一人は楽だ。満天の星空を見ていると自分が無数の星の一部になった気持ちになる。
あぁ、世界にひとつだけというのは俺も含めたすべてを言うのかもしれない。ものじゃない。当たり前な事か。
なくして初めてわかる。ひとりだ。星がキレイだ。
胸の鼓動
聴診器を毎日何人にあてるのか数えた事がない。数えたくない。もっと問診や他の事に時間をかけて話さないと見落とすのではないかと内心ドキドキしている。
似たような症状は多い。見分けをつけないと長引いて患者さんが辛い想いをする。そして、クレームと叱責を受けたりと待ち時間まで長くなり更にプレッシャーが…。
目の前にいるのは人で言葉ひとつで気に病んだり恨まれたり喜んだり泣いたりする。疲れてくると機械的になりやすい。それが悪循環になる。何故、近くのクリニックへ行かない。この辺のクリニックは優秀だぞ。最近は紹介状なしは別料金を設定しているが、それでも、一度かかってしまうと近くのクリニックへ行くように言っても予約外で来たりして受付も困ったりする。誤解が起こると大声を出してくる。元気あるじゃないですか…。
聴診器から聞こえるそれぞれの鼓動や脈動はいつも人の身体は不思議だと思わせる。
誰も病気にならない世界をやはり目指したい。
そうしたら、医療従事者はいらなくなるのだるうか?
期待と不安で今日もドキドキする。
きらめき
高級宝飾を前に身震いしそうになる。
これが似合うって言われないといけない。
立ち居振舞い、話し方、所作に礼儀作法、ダンスにって
なぜ、こんな宝石のために努力しないといけないのか?
お祖父様は柔らかな眼差しで私を見ると壁にかかっている肖像画を指し示す。
見てごらん。誰もしっかり前を見ているだろう?役割をわかっているからだよ、
役割?この宝石と何か関係があるのですか?
宝石?関係ない。これは比喩だ。民の暮らしに役に立つ時は金に換える時だろうな。
お前はこれの為に勉強や研鑽をしているのかね?
これに似合う必要があるんですよね?
お祖父様はやれやれと私に首を振った。
宝石など石だ。キレイなだけ。使う人間次第だ。
お前は若い。宝石にない若さの煌めきがある。生命だ。
足りない事を勉強し、研鑽しているのだ。そして、経験が必要だ。人との付き合い方もな。
この先、私の後を継ぐとは宝石には関係ない。
施政者とは孤独で全てを背負う事だ。
楽しみなさい。今を。この先心の糧となり守る為に。
行きなさい。今、思っている事が正しいのか確かめに。
それまで待っていよう。
お祖父様は隠して置いたバッグを見る。
外のきらめきが本物か知る為に、身分を隠して行けと背中を押す。
その瞳はイタズラっ子のように光っていた。
些細な事でも
イラッとする。嬉しい。知りたい。
どうして相手によって変わるのか。
自分の行為にも注意を向ける事が出来れば、誰が何を言っても自分のやりたい事ができる為の努力をするだろうに。誰かに何かを期待するから落ち着かないのだろう。
誰も期待してほしいわけじゃないだろうし、仕事だって◯バラ言われるんだから。
自分が正しいと思う事は些細な事でケチがつく。
やはり気にしすぎかもしれない。きっとそうだ。
開けないLINE
ねぇ、LINE教えて。
何?それ…利用価値がわからないんだけど。
利用価値?無料で使えて楽しいじゃない。
困惑しつつも自分のスマホを見せる。
たくさんのグループが作られている。ピロンと着信音が鳴る。あまり気にしていない様子でいる。
見なくていいの?急ぎじゃない?
え?あぁ、いいのよ。これはお店だから。
もしかして、見えているの全部お店?友達は?
表情が硬くなる。
あなたが初めて。自分から言ったのは。
そう。でも、やらないよ。それより、何か飲まない?
話はしたいな。文字は誤解もあるからね。
顔見ながら話したいから。LINEの代わり。連絡先は別に教えるけど、それはいや?
ブンブンと首を振り、スマホをしまうとホッとしたような様子になる。
彼女は知らない。そんなの口実だって。LINE交換などしたら、期待し過ぎて開ける事が出来なくなってしまうから。