私の日記帳
毎日、書いていたのがいつからか書かなくなり、やり始めても続かないという事に正直嫌になっている。
多分、感じたままに書けないからだろう。
醜い感情をぶつけるように書いていた日はまだまっすぐだったのか。白紙のページは眩しくて書き進める事ができない。刺激的な事も求めてないし。
反省と愚痴だけか。妄想と空想の世界もな。記録は堅苦しいから感想文?がいいかな?。やっぱり偏った自己分析になりそう。考えすぎだ。
会社では目的があるから週報や月報がだせるんだから、
同じ事ではないか。
はたと思う。何のために生きている?
だから、空白のページしかないのかな。
誰かが見るとかじゃなくて、認めたくないんだ。
空虚な自分を。夢なんか追えない。やりたい事って何?
いい歳してこれか。神界から降りて来た人も俗世で見失うって聞いた時ドキリとした。そんな高貴じゃないが。
向かい合わせ
唸っていても解決しないから、正直に言おうか?
ニンマリ笑っているが、向かい合わせに座ってる人の瞳は冷たかった。
誤解なんだけど?私、浮気しているって言われる覚えはないし、なんでそんな目で見るのか理解できない!
そう来たか。ずっと好きって言っていたよな?何故、急に変わる?こちらにも準備がいるんだってわからない?
そう言って手にした箸をパチンとする。
あのさぁ、夏場に鍋、それもチゲ鍋はキツいでしょ?
夏にはさ、冷麦とかそうめん、冷やし中華、冷製パスタとかあるじゃない。鍋のうどんも美味しいよ。でもさ、暑い時に熱いものもわかるけど、冷やし中華食べたいって言っただけじゃない。チゲ鍋は大好きだけど年がら年中食べたい訳じゃないの!
目の前の熱々のチゲ鍋をみる。
でも、せっかく作ってくれたし、冷房効き過ぎて冷えたから食べる。
取皿によそるとフゥと熱を冷ます為に息を吹きかける。
待てよ。いただきます、は一緒に言う約束だろう。
明日は冷やし中華にするよ。
いつものどうしようもない話し。今日も平和。
裏返し
また!裏返しに脱いでる。毎回、言わせないでよ。
諦めモードで段々声が小さくなってくる。そして、黙って裏返しに脱いで放ってある衣服をまとめて抱えて家事室へ行く後姿を見る事なく缶ビール片手にリモコンをいじり、テレビの操作を行う。ニュース番組に落ち着く。妻は戻ってくると何も言わずにキッチンへ行き、夕食の支度を続けていた。いつもと違う。やはり怒っているのか?
料理が運ばれて来た。好物ばかりだ、今日は何かあったか?思いあたらない。だが、好物は揚げ物、コレステロールたっぷりのものばかりだから、普段は身体に悪いからとそう出して来ないものだ。まぁ、いいか。箸を取り、取り皿に次次と取り、食していく。妻か席に座った時にはほとんどなかった。そして、何も言わずに立ちあがりキッチンへ行き、納豆、野菜の煮物を一人分持って戻り食べ始める。前はケンカになったのに不気味なほど静かだ。次第に沈黙が支配していく。重い。
風呂は湯船にたっぷり湯を足して入るとザバァと湯が溢れる。とても気持ちいい。贅沢な気持ちになる。
妻が入る頃は湯は半分くらいない。すぐ新しく湯を足すだろうから大丈夫。後で小言を言われるぐらいだ。
だが、俺は甘かった。
朝、寝坊して何故起こさなかった?と言おうとリビングに行くとヒンヤリとした人のいない空気が支配していた。妻がいなかった。朝食の代わりに一枚の紙が置いてあった。離婚届だ。記載済み。
構ってもらう事と楽する事が混ざっていた一連の行動が 愛想を尽かされたのだ。何も言わなかったのは気づいて欲しかったからか。話しをする機会を持つかという試験だったのか。
鳥のように
アホ?
自分の話を聞いた後、呆れたように一言だけ言って順番が回ってきたリンクへ出て行く。すぐに振り返ると手首をつなんで、リンクの中央まで連れて行く。
いい所ばかり見てるから、いつも同じ所で間違えるんだよ。練習しよう。通しでやるか。
スタートの合図がかかり、戸惑っているうちに曲が流れ始めた。蹴つまずいて出だしから冷たい氷に身体を打ちつけてしまった。
早く立って。動けるだろう。
イライラしているみたいで怖い。それでも、手を貸してくれた。
スタート位置に立つ。
白鳥の湖が流れ始めた。ゆっくりと滑り出す。
自分の背後に立つように並んだ時に言われた。
優雅に見える白鳥も水の中では必死に足動かして水面泳いでいるんだ。鳥みたいに自由に飛べていいな、なんて言っているのは現実を見ていないからだ。
だから、俺たちは練習するんだろう?
獲物を狙う猛禽類に見えて来た。でも、厳しいのは当たり前。いつも人一倍練習しているのは知っているから。
さよならを言う前に
言っていない。言わない。言わなくていい。関わりのある人物を頭に思い浮かべるとそんなにたくさんいない事に行き着く。
そうか。広げなかった交友関係の結果だな。
逆に楽だな。この中に自分に関心がある奴がどのくらいいるんだろうか?言わなくていいか。
荷造りをして、必要最低限の物だけを集めたら日用品と一冊の日記帳だけと改めて認識したからか、サバサバした気分に拍車がかかる。
たった一人の家族の兄があの世に行ってから見つけた日記帳には夢や希望、苦しみ、悩みが記載されていた。
迎えの車が来たらしい。いつもと同じようにバックパックを持って外へ出る。何か騒がしい。マンションのエントランスを出るとたくさんの人がいる。
迎えの車の前には見知った顔がある。
お前、何も言わずに行く気だったのか?
腕組して睨んでいる。
言わなかったはずだが?不思議に思い眉間に力が入る。
新聞に載ってんだよ。世界初の有人単独恒星間飛行へ出発ってな。どうせ面倒くさいから誰にも言わないでいたんだよな?お前の兄貴に俺は何て言えばいい?
新聞の一面のトップ記事を見せつける。黙ってさよならじゃないだろう。覚悟してるなら行ってきますぐらい言え!笑って行け。見送ってやる。みんなが来てくれた。お前がどう思っていても、関わってんだよ。
兄の写真を見せる。
俺じゃない、兄貴に言え。さよならじゃないぞ。
兄の写真に自然と所属している軍の最敬礼をしていた。
行ってきます。みなさん、ありがとうございます。
小さいさよならと添えて車に乗り込んだ。