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さよならを言う前に

言っていない。言わない。言わなくていい。関わりのある人物を頭に思い浮かべるとそんなにたくさんいない事に行き着く。

そうか。広げなかった交友関係の結果だな。
逆に楽だな。この中に自分に関心がある奴がどのくらいいるんだろうか?言わなくていいか。

荷造りをして、必要最低限の物だけを集めたら日用品と一冊の日記帳だけと改めて認識したからか、サバサバした気分に拍車がかかる。

たった一人の家族の兄があの世に行ってから見つけた日記帳には夢や希望、苦しみ、悩みが記載されていた。

迎えの車が来たらしい。いつもと同じようにバックパックを持って外へ出る。何か騒がしい。マンションのエントランスを出るとたくさんの人がいる。

迎えの車の前には見知った顔がある。

お前、何も言わずに行く気だったのか?
腕組して睨んでいる。

言わなかったはずだが?不思議に思い眉間に力が入る。

新聞に載ってんだよ。世界初の有人単独恒星間飛行へ出発ってな。どうせ面倒くさいから誰にも言わないでいたんだよな?お前の兄貴に俺は何て言えばいい?

新聞の一面のトップ記事を見せつける。黙ってさよならじゃないだろう。覚悟してるなら行ってきますぐらい言え!笑って行け。見送ってやる。みんなが来てくれた。お前がどう思っていても、関わってんだよ。
兄の写真を見せる。
俺じゃない、兄貴に言え。さよならじゃないぞ。

兄の写真に自然と所属している軍の最敬礼をしていた。
行ってきます。みなさん、ありがとうございます。
小さいさよならと添えて車に乗り込んだ。


8/20/2024, 10:19:19 PM