鐘の音
毎朝、神棚に参拝してから仏壇に手を合わす。線香を置く時に鐘(おりん)を鳴らす。会った事もない人達がいるけれど、存在したから今夫がいる。そうやって考えていたら、先祖ってすごいぞって一度墓地でいくつもの墓を見て凄い!って一人満たされた気分になり墓地は本当に知らない人だらけだけど同じように存在していたんだなって墓地を見渡していた事を思い出した。忘れてませんよって、チーンと鳴らす。でも、感情が筒抜けだからたまにごめんなさい。
お寺の鐘は年末を思わせる。ゴーンって響くと悪い考えも少しは消えるといいんだけどね。
教会の鐘は直接聞いた事がないが、明るい結婚式とお別れの音のイメージがある。そして、ロマンティックな鐘。大体妄想の世界に浸る。
半鐘も今は使わないが危ない!逃げろ!だし。
時を知らせる鐘…。
みな何かの想いを伝える為にあるのだなと思う。
神社には鐘がない!神棚神具に鐘はなかったな。鈴か。シャンシャンとかチリチリ大きさも違う。
どれも正しく生きろって言われている気がする。
毎日、やり直しだけど。
つまらないことでも
なんでも率先してやる姿は優等生だなと思っていたが、
当たり前の事でも怒り喚く姿はバランス取れてないんだなと気の毒に思った。
ある日、優等生やめればいいだろう!と、言ってしまった。正直、どうでもいい事でいちいちめくじら立てていたら身体に悪そうだったし、こちららもイライラしていてストレスだった。
何故だ?キチンとしないといけないんだから注意して当然だろう。出来ない奴が悪い。
今、目の前で萎縮して怯えているのは少しだけ他の人より鈍く、どんなに遅くなっても諦めないガッツがあり、優しい奴だ。親しくないけど。
迷惑だろう?同じラインに立てないんだぞ。
お前、人の目のある所では廊下のゴミ拾ってるけど、街のゴミは拾わないよな?どういう意味だ?
ついムキになって言ってしまった。
は?街は給料もらっている掃除屋がいるじゃないか!
ぼ、僕はそうは思わない。君はつまらない事って言うけど仕事だからって誰かが散らかさないようにすれば、
残業したり、匂いがついて嫌われたりしないと思う。
ぼ、僕はそんな君にはつまらないことてもするよ。君みたいになんでもできるわけではないから。できる事する。ずっと後ろからでも追いかけるから、先に行っていいよ。ゆっくりだけどその分景色がきれいなんだ。
こんなにしゃべる奴?キョトンとしていたが、おお、と返事してしまった。
目が覚めるまでに
コールドスリープで未来の治療に賭けると君は言った。
昔見たSF映画に出て来るような透明なカプセルに入り、眠るまでの間、話をする。
何もしなければ、周りのみんなに世話してもらったりで大変じゃない?ここで眠れば、研究の役に立つし…。
私を待たなくてもいいのよ。誰かと幸せになって欲しい。お願いはひとつだけ。私を忘れないで。
夢か。起き上がって周りを見るといつもの片付けきれない本の山がある。今じゃ紙の本は貴重だ。もう紙を好きには使えないから。
何度も夢に出て来るのは誰だろう?あの場所はどこだろう?地上か?だとしたら、施設はもうないだろう。あの大災害で大地は自力で回復するには何万年もかかるだろうと言われている。生き残った先祖たちがやっとこ衛星軌道上にコロニーを作って、月面や火星へ移住をした。
それでも地上にいたい…いや、取り残された人々がまだいるかもしれない。
まだ遠いな。もう一眠りしょう。夢の続き見れるかな。
次は名前をきいて、あの場所がどこか聞こう。探してみたくなった。
目が覚めるまでにどれだけ話せるかな。
僕の事覚えているといいけど。
僕は次の移住先になる遠い星に向かう長い眠りにつく。
病室
初めての入院が癌の摘出手術だった。
初期癌です。手術はこの日にしましょう。あっという間に入院となった。正常な判断できてる?自分。
大学病院の病室はベッドの周りをカーテンですっかり囲まれていて隣の人がどんなかもわからない。
まぁ、コミュニケーションは苦手だからラッキーだったかも。お菓子の差し入れをした患者家族に師長が御礼を言っている声や補助看が誰もいないと思って誰かの愚痴を言っていたり、ナースステーションの声が筒抜けだったりと職場環境としてはどうなんだろう。夜勤担当はイライラしているし、大変なんだろうな。血痰どこから出たの?って疲れてそうだった。
〇〇さんが一番、大変なんですよね?え?私さんですか!そんなふうに見えないのに。
私さんって私か。聞こえている事わかってる?
回診って白い巨塔ミニみたいに主治医の後ろに医師が何人かついて回ってた。晒しものみたいな気分だった。
コミュ障みたいな私はあまり嬉しくなかった。
抗がん剤も二泊三日で暇だった。具合が悪い人達には申し訳ない。再発リスク高いけど、それだけだから。
もう入院はしない。必要な人が使ってください。
明日、もし晴れたら
約束ね?明日、もし晴れたらあの公園の見晴台でお弁当食べて、遊歩道を散歩して降りたところにあるトリックアートへ行きましょう!
すっごいキラキラした瞳が私を見る。立場が逆だ。女子のかわいいおねだりをなぜアイドルみたいな顔のあなたがするの?と、いう心の声が漏れそうになる。
集合時間は公園の入口に10時でいいですか?あっ、お弁当は自分が用意しますから、心配しなくていいですよ!
そう言って何にしょうかとブツブツいい始めた。
女子の立場がないと言いかけるが、アイドルスマイル全開で指を振る。
自分はあなたの笑顔をみたいから。お弁当楽しみにしていてください。
周りに羨望と嫉妬の視線を感じる。
ありがとう。楽しみにしているね。
次の日、大雨だった。
私の行ないが悪かったのか。もっと楽しみだって言えばよかったのか。もしかしてと思い、約束の時間には早いが公園の入口に行く。
大雨ですね。残念ながら。
そう声をかけられる。彼だ。
お弁当作ってしまったから、どこか雨がしのげる場所にいきませんか?背中に背負ったリュックを示す。かわいいてるてる坊主がついていた。
何だか急に涙が出て来た。楽しみにしてたんだ。私。来ないかもって疑った。
会えて良かった。行きましょう。見晴台は次の約束にしましょう。また、雨だったらずっと約束できますね。
もう、お腹いっぱいです。