狭い部屋
あれやこれや夢見て広い部屋にしたというのにおかしい。確かここには機能的テーブルを置いて幾何学模様のレースのテーブルカバーをかけて、丸いフォルムの椅子があったはず。
壁に収納があるから、本棚は中に入れて、ベッドは壁にくっつけた。なぜ、お気に入りのものの姿が見えないのだ?ミニマリストにはなれないが、それなりに断捨離した。キッチンは何も変わらず機能的だ。
ワンルームだろう!汚部屋にしてしまったのか?
待て待て。床にはゴミも落ちてないぞ。
ピンセットが目に入る。
首を傾げて部屋を覗き込むとハタと思い出す。
あっ?先程掃除する為に摘んで出していたらしい。万年せんべい布団の上にお気に入りテーブルと椅子があった。やれやれ。ピンセットでテーブルと椅子を戻す。
肩をグルと回して腕を横に伸ばすとヒンヤリとした壁に触れる。
あぁ、立って半畳寝て一畳、妄想だけは無限に広がる。
失恋
一目見た時に惹かれてしまった。
何度かみんな一緒で話したりして、関心ないんだなって思いながら、告白した。
電話の向こうで雄叫びがした。
でも、きっと自分じゃない好みなんだろうなと、どこか冷めていながら二人で出かけた。
初めて出かけた時、2時間来なかった。もう帰ればよかった。そういう扱いなんだから。
でも、家に電話してしまった。お母さんが出た。
礼儀正しく名乗った。
次、どこに行く?全く好みが合わなかった。
行った事あるからって言われた時にもう主張はやめた。
一緒にいたかったから。
家庭環境が重いって言われた。
そうか、都合がいいんだよな。こちらから言わなければ何もなかったし、合コン?の感想なんか聞きたくなかった。
親友みたいだね。
友人以上にはなれないんだなって思った。
自分を知ってもらう努力もせず、都合のいい事ばかり求めてはいけないのに。
本当は聞いて欲しい事ばかりあって泣きたかった時もあったけど、全部隠した。
誰かいい人見つけてくれるなら応援しよう。
そんな事ばかりした。
似た人の話しするなって思っていた。でも、自分じゃないから。
私の背負った事は一緒にはしてくれないってわかっている。追いかける事は出来ないし、あぁ、自分が見えてなかったんだな。
連絡しなければ終わりだから。そう、終わり。
勝手に舞い上がった憧れで、迷惑かけたかな。
もう20年経ったのにまだ思い出すとは、元気にしていればいいだけです。
今は幸せだから。
正直
まぁ、目の前に座った取調官?そんな般若の如き形相で見なくてもいいじゃないか。と、内心溜息をつく。
『正直に言え!知っている事全てだ』
全部言ってもどうにも出来ないと思うけどな。
『分かりました。自分は未来から来ました。マシンが故障したので修理をしたくて研究施設に行きました。話が通じないので少し眠ってもらいました。過去の人間に関わってはいけないので。それで、必要な物を手に入れたので出ようとしたら警備の方々が来ました。逃げないといけない所でしたが、少し争いになってしまった訳です。誰もケガはしていないはずですが?。』
正直に話したが、ふざけるな!とツノが生えてきそうな顔をしている。暴力を我慢しているだけ偉い。コンプライアンスはいつでも重要だからね。取調の可視化も始まったばかりみたいだし、修正できるか、矛盾なくつなく事ができればだけど。
『名前は?親はなんと思う?』
急にトーンを変える。揺さぶりか。
『@#&@です。親はもっとちゃんと出来なかったのかと言うと思います。』
瞬きの間で何か考えているようだった。
『医者だ。ふざけているのか、本気かわからん』
まずいな、時間がなくなる。修理終わったかな。
『かわいそうにな。辛い事が沢山あってネジが違ったんだな。病院行って調べてもらおうな?』
急に優しくなった。あぁ、これで先に来た連中が戻って来れなかったのか。ついでに連れ帰ろう。
『病院はどこですか?』
修理完了の連絡が頭の中で聞こえる。
『今すぐ行きたいです。』
連れて行け と、命令をすると哀れむような顔をする。
『もう戻れないぞ』
なんだ。そんな事か。問題ない。
『ありがとうございます。戻らなくて良いので安心しました。』
怪訝な表情を浮かべ、般若みたいだった顔は哀しげに見ている。般若って元は優しいんだよな。
互いに正直だったが噛み合っていなかったようだ。
まさか、あの取調官がこちらから来た者だったとは。
まぁ、時代が違うからこの病院と言われている収容施からも戻れるだろう。取調官にはお礼をする握手の際に記憶認知阻害薬を打っておいた。
正直、彼はもう戻れないからね。さぁ、仲間を連れて帰ろう。
『ごめんね』
謝るぐらいならやるなよ!何余計な事してくれた訳?
テーブルの上には、飛び散ったご飯粒、処分の仕方がわかなかったらしい材料の断片が所狭しと転がっていた。
ごめんなさい。
そう言って怯えているのか、目の前で次に振りおろされるかもしれない小刻みに震えている華奢な拳を見る。
まぁまぁ、お母さん、理由を聞きませんか?
潰れてひしゃげているおにぎりらしきものを横目で見て、母親らしい女性に声をかけて、俯いている子の肩に触れる。肩がビクンとはねあがる。
身なりはちゃんとしているな。
理由?腹減ったなら買ってこいって金渡してあるんだよ。遊びでこんな事すんじゃないよ。
違う。遊びじゃない。片付けはするよ。いつも、夜遅く帰って来てお腹空いているみたいだから、前に作ってくれた丸いおにぎり作りたかったんだ。だって、美味しかったし、美味しいねって言ってくれるかなって。
うまく出来なくて『ごめんね』
拳がおにぎりに振りおろされるのかと思うぐらいの勢いで伸び、ゆっくりと指が開き歪な塊に触れる。
『ごめんね』今から一緒に作ろうか。
材料は目の前にあるし、活きがいい感じだよ。
あぁ、この家、変って言われていたのはそういう意味だったのか。巡回気をつけろって…もう遅い。
『ごめんね』帰れそうにないな。
もう意識が遠くなっているんだ。
半袖
そろそろ冬物を着る時期なのだが、駅でよく見かける人は、半袖シャツにチノパンにリュックを前抱えて文庫本を読みながら電車を待っている。
鍛えていそう…あぁ、ムキムキじゃなくても代謝がいいから暑いのかな。
あれ、薄いダウン着ているぞ。
周りはモコモコなのに、あっ、ウルトラダウンか!
すぐ脱げるな。
ん?新半袖…違う人か 腹ポッコリだし、パツパツだよな。代謝機能かな?
半袖シャツの上にジャケット羽織って真似したら寒かった。代謝悪 脂肪は冷えるんだよな?
パツパツさんはどうして暑い?こっちもそこそこだが、何が違う?脂肪のつき方だろうか 血行か? いや、それなら条件は変わらんだろう。
そんな事ばかり考えていたら春が来て夏になり、半袖の季節となってしまった。パツパツだな。半袖シャツ。