ここは、終わった人間の住む世界。
ここでは、稀少な「天使」と呼ばれる生き物の違法な売買が行われている。
その生き物は、白銀の輝く髪に透き通った白い肌、そしてその全身を包めるほどの大きな翼を持っているという。
俺はそんな神話に出てくるような生き物の存在を疑念に思いながら、今日も盗みを働く。
そんな日々にも慣れた頃、目の前に翡翠の目を持つ天使が現れた。
それは、日々の憤怒や憂鬱を全て呑み込むような、そんな、
そんな生き物だった。
「…っ、」
そいつの肩は酷く震えていた。目はまるで憎悪に取り憑かれてしまったかのように鋭かった。
俺は歓喜した。
これで数年は遊んで暮らせる、早くこいつを捕えないと、こいつの翼を、こいつの瞳を。
思っていたよりも呆気なく、容易にそいつは捕まえられた。
そいつの目は、憎悪から諦観へと変わっていた。
そいつの背中についている大きな翼は、意味を成さないらしい。俺の期待が確信へと変わる。やっとこんな生活とおさらばできる。
俺は誰にも気付かれぬよう、家とも呼べぬ程の漏屋へと奴を引きずり込む。
まずは髪か。全てむしり取ったらどれほどの大金になるだろう。それとも肌か。生け捕りにして見世物にしよう。
いや、1番はあの翼だ。我々には無い、自由に世界を飛び回ることの出来るあの大きな翼だ。
大きなナイフを手に取り、そいつの肩へ振り下ろす。
耳を劈くような金切り声が辺り一面へ響き渡る。俺の耳からは血が流れ、ナイフは俺の頬を切り裂いて壁に突き刺さっていた。
よく見るとそいつの肩もナイフで切れて血が流れていた。血は、赤色だった。真っ白な肌に赤色の血が流れている。見とれるほどに美しかった。その血も、その涙も。
心地よい無音の中に、ひとつの喧騒が入り込む。野蛮な、人の善し悪しも分からぬような人間の影。
俺は自分の持っている限り1番清潔な布で奴の怪我を縛り、強引に手を取って奴らを撒いた。
天使は、再び憎悪の目で俺を睨んだ。俺は笑った。
「俺を憎むか?弱いお前が悪いんだ。」
奴は何やら呟いているようだったが、俺には聞こえない。
「そんなに憎いならその鋭い爪で俺の喉を掻っ切ればいい。そしてその大きな翼で世界のどこへでも逃げればいいさ」
酷く尖った爪が俺の眼球の目の前で勢いを止める。
「まぁ、それは出来ないみたいだけど」
俺は奴のことを皮肉りながら、自分の声が聞こえないことを再確認する。しかし奴が感情的になっている様子を見て、それは事実であり、声をなくしたわけではないことに安堵する。
俺はこれからのことを考えながら、深いため息をついた。
「あらー、今日お散歩行きたかったけど、天気良くないみたいだね〜」
「えー!やだやだー!お散歩行きたい〜」
「でもしょうがないでしょう、雨なんだから」
「ねぇ、せんせ、? 雨って、悪い子なの?」
私はその日、傘を差さずに帰った。
その日の雨は、とても優しく、柔らかかった。
本当の友達ってなに?
真実の愛はどこ?
好きという感情の証明は?
作者の意図を考えても、難解な数式をいくつ解いても、
あなたのことは分からないまま。
どうせ教えてくれないなら知りたくなかった。
あなたが私を気にもしていないことなんて
「私、あなたのその匂いが好き。」
いい匂いだよなと笑う君に、私も微笑む。
好きなのは匂いだけじゃないけどね、
人間関係なんてめんどくさい。
空気を読むなんてできっこない。
誰が誰を好きなのかなんて興味無い。
好きなものを半分こだなんてしたくない。
だから、私は一人でいたい。
ずっと、そう自分に言い聞かせてきた。
自分の本当の声になんて気付こうとせず。
ある日、私の中にいる私が叫んだ。
「死にたい」と。
私は気づいた。私の気持ちに。
私は私が幸福になることを怖がっているんだ。
私は本当の私の望みを叶えてあげることにした。
髪を解いて、制服を整えて、靴を揃えた私は
空を見上げながら走馬灯へ飛び込んだ。