1年前の夏、彼は死んだ。
斜陽が差し込み、多くの人が交ざり合う今日まで、私の中の彼は生きていた。
知らせは突然だった。
「あの子ね、亡くなっちゃった。」
詳しい理由はわからないが、自殺だったらしい。
彼の親友が言うのだ。間違いないだろう。
年末、彼のお墓参りに行くことになった。
汗の滲むような日差しが眠ったと思えば、人々の心の隙にまで土足で入ってくるような冷たさが襲う。
明日を終わらせた君のことを知らずに過ごしてきた1年は、彼にとってどれほど孤独だっただろう。
そして、明日の来ない君のことを思う人が、君の選択の故に増えたことを、君はどう思うのだろう。
私は知らない。君の選択の訳を。
でもこれで分かるだろう。もう君はひとりぼっちじゃない。
泣かなくなってから、泣きたくなる夜が増えたの。
嫌いになってから、好かれたいって強く思うの。
貴方は眠る。
乱れたシーツの上で、
太陽が目を覚まし、今日を呼んでいる。
私は眠る。
汚れた貴方の隣で、
今日の始まりが訪れる。
始まりを終わりに変えた私達は、今日に別れを告げる。
そして、夜を待つ。
黄金色の斜陽が貴方の目を刺す。
私はそれをファインダー越しに見つめる。
貴方はいつもここにいるのに、私はいつも貴方を見失ってしまう。
紫色のパンジーが風と踊り、私の目を奪う。
私は、貴方の少し後ろで。貴方と同じものを見ていたい。
しかし貴方はいつも、どこか私の知らないものを見ている。
また私も、貴方を見ているようで自分しか見ていない。
私達には、そのくらいがちょうどいいのかもしれない。
でも、私は彼の左手を捕まえ、目を見て笑顔で問う。
「ねぇ、なにみてるの?」
3月20日。私は上京をする。
朝早く起きて、住み慣れた街を離れる。
そこには家族が居て、友達がいて、好きだった人がいる。
たくさんの時間があって、たくさんの出会いがあって、たくさんの機会があったのに。
私は、入るだけの服と大切なカメラをスーツケースに入れ、この場所に別れを告げる。
「いってきます。またね。」