1000年先も
「おい、永遠人(とわにん)。これは何だ」
新免(しんめん)は途切れそうな声で聞いてくる
「これは、世界最古の桜だ」
新免は桜の木を見上げたまま固まっている
私は過去を思いふけりながら説明する
「1000年前には双子の桜でもう一対が存在したが今は剣となった。」
「世界最古、、双子、、剣、、」
新免は一つ一つの言葉を確かめるように言う
そして新免はやっと明確な言葉を使う
「その剣の所在も分からないのか」
「そうだな、桜の剣はどこにあるかわからない。脅威度はかなり高いから早めに回収しておきたいものの一つ」
桜の剣、普通の人の手に渡れば危険極まりない
「なら探そう」
新免は妙に意欲あるようだ
「理由は?」
「ほしい、ただそれだけだ」
新免とその息子の武蔵(むさし)、そして秀吉(ひでよし)、私の4人は甲斐国(かいのくに)から大阪へとたどり着いていた
そして新免のの熱は未だに冷めてはいない
「これだけの都だ。4人で手分けすれば何かしら情報は手に入れられるだろう。」
「なぁ新免。長旅で着いたばかりだ。まずは休もう、茶屋で団子でも」
秀吉は宥めるように新免に言う
「もう時間がないんだ。俺も年だから」
新免も強い剣術師とは言え、時間には抗えない
「とりあえず、旅籠(はたご)に行って荷物を預けたい」
武蔵はたくさんの荷物を背負い込んで疲れた声で言う
新免は親としては厳しい親である
息子の武蔵を鍛えるために、重い荷物を持たせて旅をさせる
「怠けるなよ、武蔵」
新免は怒鳴る
そこに秀吉は武蔵に助太刀する
「旅籠にはたくさんの情報があるだろ」
「、、、」
新免は考え込む、そして答えを出す
「そうか、永遠人、近くの旅籠はどこになる」
新免は私に聞いてくる
ほっとする武蔵と拳を控えめに突き上げ喜ぶ秀吉を横目にして、私は答える
「3丁ほど先だ、近いな」
私は一人、大阪の都を歩く
「ここは人が多いな」
織田信長がこの世を制する寸前という今、都とそうでない場所では栄え方に大きく差が出ている
長旅をしていて、ここに着くまでは桜の剣の情報は何も手に入いらなかった
私は情報収集のため、旅籠を巡る
そしてこの都の人混みに3人は紛れて、それぞれ聞き込みをする
私たちは剣術師である
世には知られていない存在
移り変わる時代を生きる人々に隠れて、魔物を打ち倒し、人々を陰ながら守るためにある存在
そんな生業の枠を越えて、新免は武器集めが趣味である
私からすればありがたい趣味なのだ
魔力の帯びた危ない武器、通称魔具はできるだけ回収しておきたい
魔物と同じだけ、人々への危害があるものなのだ
だから新免無二、宮本武蔵、豊臣秀吉、私の4人は剣術師の特異組として、日本中を旅して、魔具集めを行っている
「ここでもなかったか」
私は暖簾を開け、外へと出る
そして、新免を見つける
「どうだ、何か情報はあったか」
私は話しかける
「いや、まだだ。そっちは」
「同じだ」
そして私は疑問をぶつける
「私からしたらありがたいが、なぜそこまでこの剣にこだわるんだ」
新免は目をそらす
「いつものことだ。ただの武器好きなんだ、俺は」
新免はそれだけ残して行ってしまった
私には何かある気がはした
「よっ永遠人」
そう言って後ろから声をかけてきたのは秀吉だった
「新免はな、時間を気にしてるんだよ」
秀吉は何かを知っている様子で言う
「時間とはどういうことだ」
「1000年も家族と会えていない桜に同情したんだとさ」
そうだったのか、いやまだ納得がいっていない
息子にも鬼のように厳しい新免が桜の双子に同情するものなのかと疑問ができる
そこに秀吉はつけ足す
「これは絶対に内緒にしてくれよ。あいつ酔った勢いでこの前言ってたんだけどな」
秀吉はニヤニヤとしている
そして秀吉は疑問の答えを出してくれる
「あの桜に恋をしたんだって」
勿忘草
"カランカラン"
来店のベルが鳴る
「いらっしゃいませ、ごちゅ、」
「ちょっと姉ちゃん!忘れる魔術をくれ!」
私のお決まりの出迎えの挨拶は途中で遮られる
「はい、それでしたらゴブリンの垢と夕暮れの空気とそれから春に咲く勿忘草をお持ちいただ、」
「姉ちゃんその分の代金も払うから取ってきてくれ!」
このお客さんは先ほどから私の言葉を食ってくる
私は少しの苛立ちを覚える
「結構、高いですけど。」
少し語気を強めて私は言う
「金はあるから頼むよ!」
そう言ってお客さんはドサッと巾着袋をカウンターに置く
「じゃあ3日後のお渡しとなります。よろ、」
「ダメだダメだ!今日にしてくれ」
お客さんは無理な注文を追加した
「それは無理ですよ。垢と空気はうちに在庫があるからいいものの、勿忘草はまだ咲くのに2日はかかります」
「そこを何とか頼むよ」
お客さんはカウンターに両手を置いて、頭を下げる
私は時計を見た
まだ朝だ
今は冬であるが、入手できる場所に心当たりはあった
「はぁ。わかりました。夕方までにはお渡しできるようにします」
「おぉありがと姉ちゃん!」
私は魔術屋をやっている
お客さんがご所望の魔術を売る仕事
普段はご所望を聞いて、それに必要な素材を取ってきてもらい、そして私は調理を行う
その調理費をお客さんからもらうという、お財布的にはやさしいシステムでやらせてもらっている
“カランカラン”
私は店を出て戸締まりをする
そしてOPENの札を裏返す
「さぁ出発だ」
私が向かう場所は、
「すみませ〜ん。ちょっとお尋ねしたいんですけど、勿忘草を育てられたりしませんか?」
どれだけ聞き込みをしても目当ての勿忘草とは出会えない
「あぁ〜そうですかぁ。すみません、お邪魔しちゃって。失礼します」
街外れの少し行ったところには勿忘草の丘がある
そこにはできるだけ行きたくなかったのだ
だからできるだけ街中だけで完結させたかった
「これで10組目、やっぱり、、いや!もうちょっとがんばろう」
私は勿忘草よりも誰も勿忘草の丘のことを言わないことに少しの不安を抱いていた
私は疲れ果てて公園のベンチに項垂れていた
無駄に動かなくて、店にいるだけで済むように始めたお店だったのになんで私はこんなことをしているんだろう
公園の入口にはソフトクリーム屋さんの売店があった
「頑張ったしな、これくらい。」
まだ何も成果を出していない私は欲に負けそうになる
すると、私の隣に小さな女の子が座った
その子はソフトクリーム屋さんの方を見つめていた
私はその光景を見て、既視感を感じた
『フォゲットさん、、、』
私はソフトクリームを買った
そしてベンチに戻ってくる
わかる。女の子の視線を感じる
「これ、食べる?」
私は女の子にソフトクリームを差し出す
「えっ、でも、、」
女の子は躊躇う
そして私は安心させるために一言添える
「大丈夫。お姉さんね、このあとたくさんお金をもらえる予定があるから」
「、、、ありがとう!」
少しの躊躇いが残りつつも、女の子は笑顔だった
『そっか、フォゲットさんもこんな気持ちだったのかな』
私はふと思い出す
そしてやっと決心がついた
「着いたぁ。久しぶりだね、フォゲットさん」
私はフォゲットさんのお墓に来た
そこにはたくさんの勿忘草が咲き誇っていた
「誰も覚えてないのかな。」
私はたくさんの勿忘草の中央にあるお墓の前に座る
目の前にフォゲットさんがいるような感覚になる
フォゲットさんは『華』といわれる魔術を持って生まれた特殊な人だった
それで戦士として魔人と戦い、そして勇敢にも旅立った
誰もフォゲットさんの偉大さを理解してくれない
みんな忘れてる
私はずっと覚えている
今日ここへ来るのが億劫だったのは、思い出しちゃうから、、、
逃げようとしていた
私も忘れようとしていたのだと気づく
私はひとしきり泣いた
「今日ね、女の子にお菓子を買ってあげたの。あのときとは逆だなと思った。フォゲットさんからもらったチョコレートおいしかったし、何よりうれしかったなぁ。ありがと」
私はその言葉だけ残して、1本の勿忘草をもらっていった
“カランカラン”
「姉ちゃん、できたか?」
焦った様子でお客さんはやってきた
気のせいか、顔や手に痣を作ってきたように見える
「一つお聞きしたいことがあります」
「なんだ?早くしてくれよ!」
「なにを忘れるおつもりですか?」
本来ならその後の用途なんて聞かないが、今日はいろいろとあったおかげかそう口にしていた
「言わせないでくれ…思い出すだけで、」
お客さんは自分の腕を強く握る
今日の私は頑固だった
「それが分からない限りはお渡しできません」
「亡くなってたんだ、久しぶりに家に帰ってきたら、妻が亡くなってたんだ。
俺は長いこと戦場に出ていて、妻は孤独に耐えられずに、自ら、、、
俺はそれに耐えられなくて、こうして自分も傷つける始末だ。だからいっそのこと妻を忘れるために」
お客さんは一筋の涙を落とした
それを知って、なおさら私は食い下がらないと決める
「では、お渡しすることはできません」
「おい、話が違うじゃないか、話したらくれるんだろ」
「お客さんは忘れてはいけないものを忘れようとしています」
「そんなこと、」
私は食った
「人は忘れられた時に本当の死が訪れるのです」
「、、、」
私は沈黙にも負けず、続ける
「誰からも忘れられた人は本当の孤独を味わうことになります。亡くなってもなお孤独にしてあげないでください」
「はい。」
お客さんは手で顔を覆った
これでとりあえずは今日の仕事は終わりだ
「今日は結局、アイスクリーム代を出しただけで何の利益もなかったなぁ。まぁでもそれ以上の価値がある日になれたかな」
少女の笑顔を見て、久しぶりにフォゲットさんにも会えて、お客さんを救うことができた
"カランカラン"
来店のベルが鳴る
「いらっしゃいませ。何でもお任せください、どんな魔術がご所望ですか。」
ブランコ
「私結構好きなんだぁ〜」
彼女はそう言ってブランコに乗って漕ぎ出す
僕はそれを見て、罪悪感を感じる
彼女は楽しそうに漕ぎ続けている
「ごめんね、今日は」
今日のデートはダメダメだった
僕がグダグダとして優柔不断だから思い通りにいかなかった
「いいよ、それよりも、ほらっ、隣あいてるよ~」
ブランコから彼女は僕とは対照的な様子で言う
僕はせめてもとブランコに座る
そして申し訳程度に軽く漕ぐ
「私は全然楽しかったよ」
彼女は漕ぎながら前を向いている
「でも、予約とかができてなくて。それで、」
「もう大丈夫だって」
彼女いつも僕のマイナスを打ち消してくれる
それが僕と彼女とを繋ぎ止めている関係の根本である
僕はマイナスを出し過ぎると怪物になってしまう
だからここでやめることにする
「そっか、ありがと。次からがんばるよ」
「おぉーそうそう、その意気だ。」
彼女はいつの間にか立ち漕ぎとなっている
そしてそこから飛び出す
着地
もう一言つけ足す
「一緒にいるだけで楽しいんだから。ブランコ、乗ってよかったでしょ?」
旅路の果てに
僕には夢があった
行くべき場所がある
そこは遠い
果てしなく遠くて、手が届かない
舞台
僕の夢、行くべき場所である
しかし、そこに立ち、たくさんの観客の顔をみるには果てしないほどの時間、努力、そして才能がいる
そしてその旅路の果てに
僕は悩む
やっと立てた舞台
観客の顔色を伺い、僕は模索し、悩む
どこまで行っても人の夢は絶えることはない
だから、夢を追うことを恐れるな
しばらく休みます🙇