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6/6/2025, 9:59:38 AM

『水たまりに映る空』

家の前のアスファルト。
少し窪んだところに雨水が溜まって、雨上がりの空が反射していた。

垣根の内から、なんの気なしにそれを眺めていると、ちょっとオカシイことに気がついた。

風もないのに水面が揺れる。
さざ波が立つように何度もゆらゆらと。
時折チャプンと音まで立てて。

気になったので外に出て、真上から覗き込んでみた。

キレイな青空。雲ひとつない。
覆い被さるように屈み込んで、顔を近づける。
空と水たまりの間に割り込むように。

それでも私の顔は映らなかった。

6/5/2025, 9:59:00 AM

『恋か、愛か、それとも』

嘗て。
酷く責められ、怒鳴られ、罵られたことがある。

弁明も口答えも許されず、相手の誤解や勘違いを正すことも拒否されて、ひたすら詰られた。

それが原因で医者に通うことにもなった。

思い出したくもないはずなのに、朝から晩まで、それどころか夢の中にまで私を責める声が、怒号が、響き渡っていた。

苦しくて、本当に苦しくて、消えてしまいたいと、自分を消してしまいたいと思い詰めていたけれど。

ある時ふと、何がきっかけかは思い出せないが、相手を消せばいいのでは?と考えが逆転した。

そこからは相手のことばかり考えた。
まずは生活習慣を調べなくては。
何時に起きて、何時に食事をして、何時に出かけるのか。
何曜日にどこに行くのか、どれくらいそこにいるのか。
何を好み、何を嫌い、どう行動するのか。

本人よりも詳しくならねば。
目的は果たせないから。

こんなにも誰かのことを考え続けるなんて。
まるで恋か、愛か、それとも――

6/4/2025, 9:47:51 AM

『約束だよ』

よく考えたら、明確に「約束」という言葉を口にしたのは、何歳の頃までだったろう。

それこそ、幼稚園か小学校低学年くらいまでじゃなかったろうか。

「じゃあね」
「またね」
そんなふうにふんわりと曖昧に、再会を匂わせることはあるけれど。

待ち合わせなどではない、秘密の共有や、互いの深いところに踏み込んだ将来に渡る何かや、胸に誓いあうような何かを交わしたことは――ないな。

「約束だよ」

“永遠”にも通じる、どこか甘い響き。
こんな言葉を交わせる相手が、まずは欲しい。

6/3/2025, 9:29:44 AM

『傘の中の秘密』

“夜目遠目笠の内”という言葉がある。

夜の暗がりで見たとき、遠くから見たとき、笠を被って顔が部分的にしか見えていないとき。
そんな状態で見ると人は想像力を働かせ、実際よりも美しく見えるという意味の言葉だ。

この笠は、昔の人が旅や外出時に被っていた菅笠(すげがさ)のことだろう。
今でも花笠音頭や阿波踊りなどで見ることができる、アレだ。

現代では日常的に被ることがなくなったから、雨の時にさす傘と混同しても意味は通る。

これからの時期は雨が多くなり、傘をさしている人とすれ違うことも増えるが、さて。

そのときあなたは相手の顔を覗き込むだろうか?

とてもじゃないが、私は恐ろしくてそんなことはできない。

だって私は見たことがあるのだ。
ふとすれ違った人の、ぬめぬめとした、瞼のない――

だから私は覗き込まない。決して。

6/2/2025, 9:59:21 AM

『雨上がり』

雨が降った後は、空気中の埃が洗い流されて、少し視界がクリアな気がする。

くすんでいた庭の草木も艶々だ。
サツキ、紫陽花、スイカズラ。

花弁や葉に乗る水滴が、オパールのように虹色に輝く。

まだ暑さの一歩手前。
蒸し加減もまだ大丈夫。

これくらいの気温で、もう少しいて欲しい。
今日は長袖で丁度いいのに、明後日からは真夏日だそうな。

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