『君を探して』
シェル・シルヴァスタインの『ぼくを探しに』という絵本を思い出す。
体の一部が欠けた円形の生き物が、自分の欠けた部分を探しに旅に出る話だ。
景色を眺め、歌を歌い、虫たちと楽しく転がりながら旅は進む。
やがて自分にぴったりな欠片を見つけた時、あることに気づく。
人は皆、なにか欠落感を抱えていて、それが時に原動力となって前に進んだりするけれど、満ち足りてしまったらまたそれを不満に思うものなのだろうな。
まだ見ぬ君を探して進み続けている間が、一番幸せなのかもしれない。
『透明』
上記の文章、読めているでしょうか?
今日は透明のインクで書いてみたのですが。
『終わり、また初まる、』
その人は、死者の魂を船に乗せて彼岸へと送り届ける仕事をしていた。
若い娘が亡くなったときも、
働き盛りの農夫が亡くなったときも、
自分の年老いた母親が亡くなったときも、
その人は黙々と魂を送っていった。
「あの人をよろしくお願いします」
「あの子をどうか無事に向こうへ」
残された家族は大抵そう言う。
なぜなら、魂が彼岸へと辿り着けなければ輪廻の輪に入れなくなるからだ。
その人はいつも黙って頷き、船の舳先に灯したランタンを家族に触れさせる。
その仄かな温もりに、家族たちはほっと息をついて見送るのだ。
「つれていかないで」
ある時、親を亡くした幼子がその人にしがみついた。
その人はしばらく考える素振りを見せ、ランタンの灯を触れさせながら答えた。
「人の旅路はここで終わり、また初まる、まっさらな状態で、初めから、何度でも。そのうちのどこかで、出会うこともあるだろう」
幼子は目を凝らし、軋む音を立てながら遠ざかる船をじっと見つめ続けた。
『星』
昔、なにかの本で読んだことがある。
いま見ている星の光は、何百年、何千年、何万年前のものだと。
地球からの距離にもよるけど、基本的には過去の姿だ。
光の速さは秒速約30万km。
1秒前の光ですら、30万kmも離れた場所から来ている。
自分が生まれるずっと前、遥か昔の光を私たちは見ているのだ。
あの星も、その星も、いまでもまだ存在しているのだろうか。
私の目に届くまでに、どんなことが起こっているのだろう。
私がそれを目にすることはないのだろう。
とても不思議で壮大な話だ。
『願いが1つ叶うならば』
十年以上昔のあの日にかえって、みんなに「逃げて」と言って回りたい。
手当たり次第に、道で出会った見知らぬ人だろうと構わずに。
逃げて逃げて逃げて、と。
きっと相手にされず、頭がおかしくなったと思われるだろうけど。
でも、時間は逆行しないし、失われたものは戻らない。
ひとつの災いから逃れても、毎年のように何かが起こる。
だから、平和や平穏無事を祈る。
一見ささやかに思えるそれが、なによりも難しい願い事だと思うから。