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『終わり、また初まる、』

その人は、死者の魂を船に乗せて彼岸へと送り届ける仕事をしていた。

若い娘が亡くなったときも、
働き盛りの農夫が亡くなったときも、
自分の年老いた母親が亡くなったときも、
その人は黙々と魂を送っていった。

「あの人をよろしくお願いします」
「あの子をどうか無事に向こうへ」

残された家族は大抵そう言う。
なぜなら、魂が彼岸へと辿り着けなければ輪廻の輪に入れなくなるからだ。
その人はいつも黙って頷き、船の舳先に灯したランタンを家族に触れさせる。
その仄かな温もりに、家族たちはほっと息をついて見送るのだ。

「つれていかないで」
ある時、親を亡くした幼子がその人にしがみついた。
その人はしばらく考える素振りを見せ、ランタンの灯を触れさせながら答えた。

「人の旅路はここで終わり、また初まる、まっさらな状態で、初めから、何度でも。そのうちのどこかで、出会うこともあるだろう」

幼子は目を凝らし、軋む音を立てながら遠ざかる船をじっと見つめ続けた。

3/12/2025, 1:32:15 PM