『あたたかいね』
寝起きの布団
潜り込んだ炬燵
ホットの飲み物
ふわもこの耳あて
手編みのマフラー
缶入りのコンポタ
コンビニの中華まん
差し出された、あなたの手
『未来への鍵』
これは未来への鍵。
そう自分に言い聞かせて、今日も鍵穴に差し込む。
しかし解錠される音はなく、扉も開かれることはない。
何度も何度も繰り返してきた。
いつか、懐かしいあの風景へ辿り着けると。
この鍵穴はなんのためにあるのだろう。
外側からしか開かない扉。
私が外へ出るには、徒労だと思っても鍵を差し込むことしかできない。
気がついたら、この部屋の中にいた。
いつの間に閉じ込められたのかもわからない。
傍らには、真鍮でできた小さな鍵がひとつ。
これは、未来への鍵。
これは、未来への鍵。
これは――
『星のかけら』
《精霊の国は死者の国と関連する。
陽は射さず、ただ永遠の黄昏が続くだけ。》
《人が迷い込めばそれっきりで、現世に帰還するにはなんらかの使命を遂行して精霊の役に立たなければならない。》
そんな伝承を読み返しているのは、今日訃報を受けたからだ。
やさしい人だった。
傷つけられた私に「なんて酷い話だ」と慰めの言葉をかけてくれた。
どこかへ出かけると、いつもお土産を持ってその話聞かせてくれた。
訃報を知らせるメッセージに、しばらく呆然としてすぐに返信ができなかった。
その人本人には言いたいことはいっぱいあるのに、ご家族にはなんと言葉をかけていいのかわからない。
人は亡くなると星になるという。
ならばあの人がくれたやさしさは、星のかけらだろうか。
『Ring Ring …』
みんなに私の秘密が全部知られてしまうという夢を見ていた時、リンリンというアラーム音で目覚めてほっとした。
旧式の電話の音は、初めて聞いたときからどこか気分を落ち着かせてくれる。
画面をタップして音を止めたが、静かになった部屋に誰かの息づかいが聞こえて体が強張った。
そっと周りを窺っても、人の気配はない。
しばらく息を詰めていたが、ふと手の中のスマートフォンからその不審な音が聞こえているのに気がついた。
画面を見るとアラームではなく、通話になっている。
慌てて通話を切った。
ちょっと考えてから電源も落とす。
薄気味悪さを振り切るように体を起こし、身支度を始めた。
顔を洗って朝食の支度にとりかかった時。
リンリンと音がした。
さっき止めたはずなのに、また。
『追い風』
背を押す風に身を任せ、なんとなくぽてぽてと歩く。
寒いけど体はがっちり着込んで防寒しているし、ニット帽に覆われた耳も暖かい。この時期は、マスクも防寒具になる。
白い山茶花が清々しい。
赤い椿は艶やかだ。
まだ黄色いあの実は千両だな。
あっちの赤いのは万両か。
背の高い笹のような葉に赤い実は南天。
鈴なりに生っている黄緑色は金柑か。
スマートフォンでパシャパシャ写真を撮って、あとでSNSにアップしようと保存する。
病み上がりで体力が落ちているからと散歩に出たが、なかなか良い気分転換になった。
風の吹くまま、気の向くまま。
そういうのも、たまにはいいな。