【永遠なんて、ないけれど】
ここにあの人の遺した言葉がある。
軌跡が、文書となり、文書が、石碑となり、
石碑が、歴史となり、歴史が、紡がれる。
永遠なんて、ないけれど―――永遠は確かにある。
けれど只人である私たちに、
永遠は…存在しないのでしょう。
それは神に愛された者たちだけに与えられるものだから。
【涙の理由】
ときおり、理由(わけ)もなく涙が出ることがある。
もちろん映画に感動したとか、小説に感情移入したとか、とりとめのない理由で泣くこともあるけれど。
けれど、一番はっきりと覚えている涙の理由は、
―――あの人にもう二度と会うことができない。
その真実を突きつけられたときかしら?
記憶というものは残酷だわ。
声も姿も、匂いも温もりも、
すべて、すべて忘れてしまう。
あの人の存在が…無になるの。
そうしてあの人を完全に失ったとき、
わたしは人目も憚らずに泣いていた。
人生であれ以上に泣いたことなどないくらい…。
【コーヒーが冷めないうちに】
こぽこぽと、音を響かすサイフォンに耳を傾け、
コーヒーの香ばしい香りに包まれてあなたを待つ。
薄暗くなってきた夕方の店内、静かなクラシック、時計の針だけが時を刻み、扉が開くその瞬間まではまるで刻が止まったようにも思えてしまう。
一昨日、あなたは来なかった。
昨日も、あなたは来なかった。
今日、あなたは来るのかしら?
小さな期待と、わずかな失望。…そして一縷の望み。
その全てを両手に抱えて、私はあなたを待ち続ける。
扉が開く。鐘がなる。カウンター横の猫が飛び降り、爽やかな風が入り込み、顔を上げた私の瞳に映ったのは………いったい誰だったのだろうか?
【パラレルワールド】
「………あれ?」
大通りの交差点、ふと通りすがった君。
見覚えのある顔も、指触りのいいさらさらな髪も、特徴的な目元のほくろも、なにもかもが君の姿だった。
僕は思わずその手を掴んで、君の名を小さく呼ぶ。
「×××」
確かに君の名前を呼んだはずなのに、なぜか声は出ずに空気が漏れた。けれどそんな呼びかけに気づいた君は、僕を振り返るとくすりと笑った。
「…残念。私はあなたの×××じゃないわ」
風がつむぎ、一瞬目を離した隙に、君は霞のように消えてしまった。僕以外、誰一人として気づかずに…。
夢か現か幻か。けれども僕は君を知っていて、そしてきっと君も僕を知っていた。
「あなたとわたしが出会うのはまだまだ先よ」
だからもう少し待っていて―――。
そんな優しい声が耳に囁いた、そんな気がした。
【時計の針が重なって】
時計の針が重なって、
わたしとあなたの時間は終わり。
次はわたしとあなたが刻むべき針。
そこにはどんな時間が待っているのかしら?
もしかしたら幸せな時間かもしれない。
それとも不幸せな時間かもしれない。
決別も、再会も、あるでしょう。
それでもあなたと刻む時間があるということは、
わたしにとってはとてもとても大事なことなの。