【パラレルワールド】
「………あれ?」
大通りの交差点、ふと通りすがった君。
見覚えのある顔も、指触りのいいさらさらな髪も、特徴的な目元のほくろも、なにもかもが君の姿だった。
僕は思わずその手を掴んで、君の名を小さく呼ぶ。
「×××」
確かに君の名前を呼んだはずなのに、なぜか声は出ずに空気が漏れた。けれどそんな呼びかけに気づいた君は、僕を振り返るとくすりと笑った。
「…残念。私はあなたの×××じゃないわ」
風がつむぎ、一瞬目を離した隙に、君は霞のように消えてしまった。僕以外、誰一人として気づかずに…。
夢か現か幻か。けれども僕は君を知っていて、そしてきっと君も僕を知っていた。
「あなたとわたしが出会うのはまだまだ先よ」
だからもう少し待っていて―――。
そんな優しい声が耳に囁いた、そんな気がした。
【時計の針が重なって】
時計の針が重なって、
わたしとあなたの時間は終わり。
次はわたしとあなたが刻むべき針。
そこにはどんな時間が待っているのかしら?
もしかしたら幸せな時間かもしれない。
それとも不幸せな時間かもしれない。
決別も、再会も、あるでしょう。
それでもあなたと刻む時間があるということは、
わたしにとってはとてもとても大事なことなの。
【僕と一緒に】
僕と一緒に暮らしませんか?
小さな小さなアパートだけれど、
君の大好きな猫が飼えます。
君は落ち着いた色が好きだから、
淡い基調のカーテンを選びました。
テーブルにはベージュのクロスを敷いて、
椅子はちょっとしたアンティークです。
君は花が好きだと聞いたので、
ベランダにいくつか種を植えました。
僕はいつまでも君を待ちます。
いつかきっと君の目が覚めて、
あの白い建物から出てくる君を。
あの日僕が君に渡した指輪を、
嬉しそうに受け取ってくれた君を…。
【cloudy】
今日の空からじゃ、君は見えないね。
君からも、私のことは見えないでしょう。
【秋色】
揺れるすすき野、
深い深い夜空には、
ぽっかり浮かぶ金色の月。
あめつちに わが悲しみと月光と
あまねき秋の 夜となりけり
あなたは今、そこから私を慈しむのでしょう。