【もしも世界が終わるなら】
もしも世界が終わるなら、何がしたい?
悔いを残さないために、全てを諦めるために。
私は…そうね。あなたに会いに行きたいわ。
強く、気高く、潔く、何の未練も残さず笑って逝った、私が愛し…あなたが愛してくれた私の目の前で、あなたは躊躇いのひとつも見せずに海に散った。
あなたの世界はきっとそこで終わりだった。
それなら私の世界の終わりには、あなたに会いに行ってもいいでしょう?
ずっと、ずっと…この時を待っていたのだから。
【靴紐】
「靴紐が解けてる」
君が言って、歩を止める。
僕は屈んで紐をキツく結び直し、
差し伸べられた手を取り立った。
解けてしまったら直せばいい。
君と僕がそうだったように。
【答えは、まだ】
たとえば10年間、名前しか知らなかった君。
話したこともなければ、互いの認識すらない。
けれどいつも心のどこかで残る君の名の音。
顔も、声も、昔の姿も、今の姿も、まったくなにも想像がつかなく、まるで妄想の中に存在する人のよう。
だけど、君が確かにいたという記憶だけは確かにあって、こうして君を想うと胸が仄かに暖かくなるんだ。
この気持ちの答えはいったいなんだろう。
答えは、まだ、わからない。けれど、わかったところでどうすればいいのかさえも、またわからない。
【センチメンタル・ジャーニー】
そうだ、あなたの好きだった海に行こう。私は山が好きだったから、いつも喧嘩ばかりしていたね。
でも、もうそんな喧嘩すらできないから、あなたの好きだった海に行こう。
温い潮風、耳につく潮騒、寄る波辺を歩いて…。
ここをあなたと歩いていたら、もう少し何かを感じられることができたのだろうか?
【君と見上げる月】
君と見上げる月が綺麗だったことを、
君がいなくなって初めて知った…。
今宵見上げる月は雲に隠れて見ることができない。
――――――――――――
月よ、月よ、遥かに遠き月よ。
君と見上げたあの月が最期だというのなら、
あの日あの瞬間に君を抱きしめればよかった。
月よ、月よ、さてもかわらぬ清けき月よ。
その冷たき光にひと欠片の情があるのなら、
どうかその瞳の涙を私の代わりに拭っておくれ。
――――――――――――
君と見上げたはずの月が記憶にないのは、
きっと月明かりに照らされた君の横顔を、
飽きもせずにずっと見つめていたせいだね。