イオリ

Open App
3/27/2024, 10:31:45 PM

My Heart

 写真を撮るようになった。本格的というわけではなく、スマホで撮るだけだが。  

 部屋の中では猫を撮ることが多い。シャム猫。吸い込まれるような青い瞳が美しい。目を閉じると顔全体が真っ黒になる。その差が面白い。

 外に出るとやっぱり花かな。椿、ツツジはまずまずだが、梅、桜は空が入ると難しい。光加減のせいかな。もっといいスマホだとくっきり撮れるのかもしれない。

 車を走らせ海に行ったこともあるが、なぜか写真は撮っていなかった。撮らなかった理由はなんだったか。思い出せない。


 撮った写真をPCで整理していたとき、年上の彼女が覗き込んだ。

 人は撮らないの? そう言われて初めて気付いた。確かに一度も撮っていない。

 撮ってない。

 どうして。

 さあ。

 ふうん、と彼女が言った。それから意地悪な顔をして、

 人嫌いの心が写真に出るのが怖い?

 知らない。少しぶすっとした顔で僕は答えた。

 私のことも撮ったことないよね。ちょっと撮ってみて、いま。

 やだ。

 なんで。

 なんとなく。

 ふうん、とさっきよりももっと意地悪な顔をして自分のスマホを取り出した。

 じゃあ代わりに私が撮っちゃおう。と言って僕をカシャカシャ撮りはじめた。

 ほらほら、撮りたくなった?

 ならない。どうしてなるんだよ。
 
 まったく、ひねくれ男め。ほら見なさい、そう言って撮ったばかりの写真を見せる。

 スクープ、人嫌い男の仏頂面。

 ……楽しそうだね。

 うん、楽しい。


 いつか僕も人を撮ることがあるのだろうか。もしその時がきたら最初は、意地悪してはしゃぐ女、になるかな。変なテーマだけど。

 まあそれでもいいか。

 

3/26/2024, 11:07:10 PM

ないものねだり

 大谷が水原を切った。まさに、泣いて馬謖を斬る、といったところか。

 裏金問題で揺れている永田町にも、諸葛孔明がいて欲しいが。果たして。

 仮にだが、大鉈を振るったとしても、それが馬謖たり得る材か否かは冷静に見なければならない。なにしろ、この話題の主演は安倍派だ。岸田派はさほど多くない。自ら聞き取り調査を行ってリーダーシップをアピールしているが、さて、どれほどの効果があるか。

 細かい話になるが、この聞き取り調査なるものはいかなる形態のものなのか。ガリア戦争時、命令違反を犯した兵に対し、カエサルは軍法会議を開いて厳しく処罰したとされている。当時の軍法会議が公開か非公開かは僕にはわからないが、会議、と銘打つ以上、ある程度の人数を前に処罰を決定したのではないだろうか。

 何を言いたいかというと、今回の聞き取り調査も、公開で行うのが良いのでは、ということだ。何も執行部数人だけでやる必要はない。全て国民に公開して、聞き取りの様子を見てもらえばいい。それができないなら、この聞き取り調査なるものの価値も、その程度のものとなるのではないか。

 とは言うものの、諸葛孔明やカエサルなどの傑物がそうそう永田町にいるわけもなく……。わかってはいるのだが、それでも、と願ってしまう。


 さて、洗濯物を干そう。今日は晴れ。明日、明後日は不安定らしい。永田町の空模様がどうあれ、僕は僕のやるべきことをやろう。

3/25/2024, 10:00:11 PM

好きじゃないのに

 こちらが望んだわけでもない。好きでもない。なのに毎日自己主張してくる。無視したいがそれもできない。

 本当にわずらわしい。

 毎朝、お湯で温めたタオルで顔を蒸らし、シェービングクリームを塗ってカミソリをあてる。

 頼んでもいないのに毎日必ず顔を出してくる。面倒くさいったらありゃしない。いっそのこと、全部脱毛してしまおうか。

 
 という話を年上の彼女にした。

 ダメ。

 何が。

 脱毛。

 どうして。

 あなたがひげ剃ってるところ、私好きよ。

 ……そう。

 うん、大人の男って感じで。でもあなたちょっと男らしくないところあるから、男らしくしなさいってひげが言ってるんじゃないの?

 ……頑張ります。

3/24/2024, 10:16:32 PM

ところにより雨

 部屋を飛び出そうとする彼女の手を掴んだ。

 離して。

 待って。

 悪いのはそっちでしょ。今は何も聞きたくない。

 わかってる。持ってけ。僕は傘を差し出した。

 いらない。降ってないから。

 いいから。ところにより雨、らしいから。

 なにそれ。そんなのたいして降らないよ

 いいから。 彼女の手に無理やり握らせた。

 僕は卑怯だ。傘程度で、少しでも許されようとしている。

 彼女は力なく傘を取り、無言で背を向けた。

3/23/2024, 11:32:57 PM

特別な存在

 のび太にとってのドラえもん
 
 ホームズにとってのワトソン

 信長にとっての光秀


 ふむ、と、僕の独白を彼女がじっと聞いている。

 アンパンマンにとってのジャムおじさん

 サツキとメイにとってのトトロ

 大谷にとっての水原

 ちょっと待って。それはなんか違うよね、彼女が言う。

 ああ、そっか。そうだね。えっと、じゃあ、

 エドワード・エルリックにとってのアルフォンス・エルリック

 杉下右京にとっての亀山君

 綾野剛にとってのガーシー

 ちょっと待って。3つ目がおかしくなるよね。彼女が言う。

 ああ、そっか。そうだね。えっと、じゃあ、

 ロミオにとってのジュリエット

 マーク・アントニーにとってのクレオパトラ
 
 僕にとっての君

 ちょっと待って。だから3つ目がおかしいよね。

 おかしい?

 おかしいよ。

 そう。

 うん。たぶん。


 どうしよう。ここから何を話せばいいのか。


 彼女の方から口を開いた。

 意味不明な面倒くさい話は終わり。ラーメン食べに行こう、のび太くん。

 許された。そんなふうに胸がホッとした。

 僕はドラえもんだよ。

 何を生意気言って。どう考えてもあなたがのび太でしょ。だらしないんだから。メガネだし。

 わかったよ。いいよ、それで。僕は諦めを含んで言った。


 本当はどっちがどっちでもいいんだ。一緒にラーメン食べられたら。

 
 
 

Next