バカみたい
必死にサプリメントを服用してもなんの意味もない。結局は、毎日の食事だ。
よく考えたら、サプリメントよりも処方薬のほうが安くて効果がある。どうしても悪玉コレステロールを下げたいならば、素直に医師に相談したほうがいい。効果がないどころか健康被害が出るものに、大枚はたいて購入している消費者を、バカみたいに思っていたんだろうな。
それにしても、この件は小林製薬だけで収まるものではないだろう。サプリメントを販売している企業全てに影響が出るのではないか。
それに加えて、サプリメントの広告を出している媒体と広告会社の信頼性にも疑問が生まれるはず。ネット広告の方はさほどダメージはないかもしれないが。
問題はテレビのほうだ。CMはもちろん、きっちり枠を取ってサプリメントの通販番組を毎日放送している。宣伝している商品が実際にはどんなものなのか、事前にどれほどの調査をしたのだろうか。医学博士の肩書きの人間が、雄弁に語る姿を見せさえすればそれでいいと。誠実さを微塵も感じない番組の多さを鑑みると、やはり期待できそうにないな。広告料が入れば商品の本当の価値などお構い無し、とさえ見える。
テレビの横暴にはどう対処するか。というより、誰が対処するべきか。やはり国だろう。消費者庁、総務省、国会議員。なかでも国会議員だ。彼らは自己のためにテレビの機嫌を損なうことは避ける。前述したが、あんなに毎日、サプリメントの番組を流すのははっきり言って異常だ。そこまで日本人が不健康ならば、サプリメントに頼っている場合ではない。にも関わらず、不誠実な宣伝を放置している。結局、国会議員も国民をバカにしているのだろう。
なんてことを考えてるとストレスが溜まる。何で他人の不祥事で、僕がイライラしなきゃならないのか。バカみたいだ。
二人ぼっち
転校生の影響でギターを始めた。初めて目の前でギターの演奏を見た。彼の指が踊っていた。
何も知らない僕に彼はイチから教えてくれた。夢中で練習した。
そのうちバンドを作った。二度、メンバーが入れ代わったが、2年目からは同じ5人で活動した。
ライブもした。小さなハコだったが。
楽しかった。
そして。
誰もが大人になっていく。ひとり去り二人去り。結局、元のふたりだけになった。
だからさ、そこ、押さえ方が緩いんだよ。彼が言う。
いいんだ、これがやりやすいから。僕が返す。
休日に2本のギターだけのセッション。弦の上で彼の指は相変わらず、華麗にダンスを踊る。
いつか必ず僕も追いつく。
夢が醒める前に
寝顔。愛おしい。
起こさないように静かにベッドを出る。
ヤカンを火にかける。その間、朝食の支度をはじめる。
食事を終えて部屋に戻る。彼女はまだ眠ったまま。愛しさに我慢できず、指で頬をなでたり、耳をつまんでみたり。それでも起きないときは、名前を呼んでみる。すると、何言かを漏らして反応する。
頬にキスしようと顔を近づける。
ゴロゴロ、ゴロゴロ、喉を鳴らす彼女。モフモフのほっぺにキスしてもまだ起きない。今がチャンスだ。
廊下に出て急いでトイレ掃除をはじめる。彼女がまだ夢の中にいる間に終わらせなければ。
ここ数年の朝のルーティンだ。今年で13歳。まだまだ元気。いっぱいウンチして長生きしてね。
胸が高鳴る
誕生日のプレゼントだと言って、彼が傘をくれた。
いつもコンビニで買ったビニール傘を使っていたが、不便を感じたことはない。どうせそのうちどこかでなくしてしまう、傘なんてそんなものだと思っていた。
色はベージュ、縁にはブラウンのラインが彩られている。持ってみた。しっかりしているが軽い。いつもの傘とは全く違う感覚。
高かった?
少しね。 彼が笑顔で言った。
数日後。今週の天気は雨模様が続く、とテレビが告げた。
いよいよプレゼントの出番だな、そう思ったときあることが頭に浮かんだ。値段の札は取っただろうか。はっきりとは記憶にない。私に渡す前に彼が取ったとは思うけど。念の為確認しよう。
傘立てに一本だけになった傘を取り出す。ぱっと見、札らしきものはない。いちおう、中も見ようと狭い玄関からリビングに移動して広げてみた。あっ、と声が出た。内側は、別の色になっていた。薄いみどり色。びっくり。
以前、みどり色が好きだという話をしたことがあった。田舎で育ったから落ち着く色だと。
奴め、なかなかやるな。次に会ったら褒めてあげよう。
明日の準備を済まして、ベッドに入る。
どのぐらいの雨だろうか。40%との予報だから、それほどの量では無いかもしれない。最近の天気予報はハズレてばかりだし。もしかしたら、傘も必要ないかもしれない。
目を閉じた。傘をさす自分の姿をイメージする。
周りに人がいないのを確認し、広げた傘をくるくる回す。くるくる、くるくる。何度も。
決めた。
朝、小雨でも、降っていなくても明日はあの傘を持って行く。
不条理
地震はどうしようもない。雨が続くことも。
高く飛びたい願望が鳥よりもあるのに、まったく飛べない。
みんなが平和を望むのに、プーチンが圧勝した。
人参がイヤなのに、シチューに2つも入っていた。
神様はなんて意地悪なんだ。僕みたいな小さな存在をどう扱ってもいいと思ってる。不条理だ。
という話を年上の彼女にした。
バロットって知ってる?
知らない。
たまご。孵化直前の。ひなの形になってる。
食べるの?
食べるの。
無理です。
なんで?
だってもう生き物の形してるから。
普通の卵は生き物じゃないの?
いや、そういうわけじゃないけど。
普通の卵は食べる?
うん。
卵からすれば君も不条理に見えたりして。
……嫌なこと言わないでくれ。
お腹すいた。親子丼作って。卵スープ付きで。
……はい。……ちなみに食べたことあるの?そのバロットってやつ。
あるよ。フィリピンで。私は何でも食べるの。 彼女が笑顔で言った。
そんなことより、早く親子丼作って、不条理くん。
その呼び方、やめてください。