イオリ

Open App

胸が高鳴る

 誕生日のプレゼントだと言って、彼が傘をくれた。

 いつもコンビニで買ったビニール傘を使っていたが、不便を感じたことはない。どうせそのうちどこかでなくしてしまう、傘なんてそんなものだと思っていた。

 色はベージュ、縁にはブラウンのラインが彩られている。持ってみた。しっかりしているが軽い。いつもの傘とは全く違う感覚。

 高かった?

 少しね。 彼が笑顔で言った。


 数日後。今週の天気は雨模様が続く、とテレビが告げた。

 いよいよプレゼントの出番だな、そう思ったときあることが頭に浮かんだ。値段の札は取っただろうか。はっきりとは記憶にない。私に渡す前に彼が取ったとは思うけど。念の為確認しよう。

 傘立てに一本だけになった傘を取り出す。ぱっと見、札らしきものはない。いちおう、中も見ようと狭い玄関からリビングに移動して広げてみた。あっ、と声が出た。内側は、別の色になっていた。薄いみどり色。びっくり。

 以前、みどり色が好きだという話をしたことがあった。田舎で育ったから落ち着く色だと。 

 奴め、なかなかやるな。次に会ったら褒めてあげよう。

 明日の準備を済まして、ベッドに入る。

 どのぐらいの雨だろうか。40%との予報だから、それほどの量では無いかもしれない。最近の天気予報はハズレてばかりだし。もしかしたら、傘も必要ないかもしれない。

 目を閉じた。傘をさす自分の姿をイメージする。
 
 周りに人がいないのを確認し、広げた傘をくるくる回す。くるくる、くるくる。何度も。

 決めた。

 朝、小雨でも、降っていなくても明日はあの傘を持って行く。
 

 
 
 

3/19/2024, 11:10:58 PM