イオリ

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2/26/2024, 11:14:23 PM

君は今

 デスクに郵便物を届けてくれる若い女の社員がいる。

 郵便です。

 ありがとう。

 いつも機械的なやり取りで終わる。忙しそうに作業している私の邪魔をしないようにだろう。渡したあとはすぐさま踵を返し去っていく。



 郵便です。

 ありがとう。

 いつも通り。のはずだった。封筒の差出人に目を落とす。妻からだ。別居中の。言い知れぬ不安を抱きながら開封しようとして手が止まる。

 なんだろう、違和感がある。なんの違和感なのか。

 一瞬ぼんやりとして、それからはっと気付いた。

 足音だ。郵便物を届けてくれた彼女の、足音が少ない。

 視線を感じる。手元の封筒を見ていても感じる、確かな視線。

 なぜだ。なぜ君は今、私を見ている。今日に限って、なぜ。

 尋ねたいはずなのに、顔を上げるのがためらわれる。

 間違いない。

 彼女は私を観察している。手を震わせながら封筒を見つめている私を。

2/25/2024, 10:08:28 PM

物憂げな空

 何かがあったわけじゃない。なぜか陰鬱な気持ち。暗い空のせいか。

 顔を上に向けた。視線を動かさずにじっと見た。身動ぎせずじっと。ゲシュタルト崩壊で空を壊してやろうと思って。

 しばらくして。

 鳥の姿が流れた。雲はちぎれて元の形をなくしていった。日の光はより弱々しくなっている。

 さっきまでの空が崩れていく。

 でもこれ、ゲシュタルト崩壊じゃないな。普通だ。空の普通。いつもの。

 ずるいな。そっちはこちらの心に干渉するのに、こっちはそっちに何もできないなんて。理不尽だよ。


 帰りにキムチ鍋の材料とクッキーを買った。途中のアイスクリーム屋でトリプルを買った。

 これで空からの干渉にバリアを構築できる。曇天なんぞに僕の心を冒されてたまるものか。

2/24/2024, 11:28:32 PM

小さな命

 僕よりも小さな体格のやつには勝つ自信がある。殴り合いでだ。

 一つ目巨人のキュクロープスには勝てない。あいつは人間をヒョイっとつまんで飲み込むぐらい大きいからね。 

 では、どうやって勝とうか。オデュッセウスがやったように、酒で酔わせて目を潰してやろうか。


 というふうに、大きなやつはただ力を振り回し、小さいやつは知恵を使おうとする。

 自分自身を大きいと思っている時は、雑なことやるけど、小さいと思っている時は頭を使って繊細にやろうとする。

 権力を持っている者は、持たざるものに傍若無人に振る舞う。不様に見えなくもないが、本音を言えば、それはそれでいい生き方だなと憧れる時もある。不様だけどね。

 時代を考えれば、やはり知恵を頼りに生きる方がいいのだろうね。巨人にならなくても、いや、なったとしても、毎日小さな脳みそをフル回転して生きていたい。

 だいたい、僕ごときが誰かを小さく見るなんて生意気だ。何を考えてるんだ、まったく。

2/23/2024, 11:06:13 PM

Love you

 歯ブラシ2本 コーヒーカップ2つ ハムトースト2枚 りんご4分の1を2つずつ

 美術館大人2枚 パンフレット1枚

 イタリアンのパスタ2人前 

 カフェのいちごパフェ1つ チョコレートパフェ1つ

 新しいネクタイ一本 新しいYシャツ一枚 新しいブラウス一枚 新しいスカート一枚

 猫の餌一箱

 ハンバーグ2つ ナイフとフォーク2本ずつ サラダ用の皿2枚 ワイングラス2つ

 笑顔ふたつ。


 

2/22/2024, 10:45:19 PM

太陽のような

 オレンジ色の光が全ての命を芽吹かせる。

 星を廻し空気と水を循環させる。 

 昼と夜という変化で命にロマンスを与えてくれる。

 太陽はなんて偉大なんだ。



 なんてことを考えながら、フライパンの蓋を開ける。

 ユーチューブで見た通りの手順でやってみた。

 白身で曇らない、きれいなオレンジ色の半熟目玉焼き。

 命の根源、いただきます。納豆も食べます。

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