君は今
デスクに郵便物を届けてくれる若い女の社員がいる。
郵便です。
ありがとう。
いつも機械的なやり取りで終わる。忙しそうに作業している私の邪魔をしないようにだろう。渡したあとはすぐさま踵を返し去っていく。
郵便です。
ありがとう。
いつも通り。のはずだった。封筒の差出人に目を落とす。妻からだ。別居中の。言い知れぬ不安を抱きながら開封しようとして手が止まる。
なんだろう、違和感がある。なんの違和感なのか。
一瞬ぼんやりとして、それからはっと気付いた。
足音だ。郵便物を届けてくれた彼女の、足音が少ない。
視線を感じる。手元の封筒を見ていても感じる、確かな視線。
なぜだ。なぜ君は今、私を見ている。今日に限って、なぜ。
尋ねたいはずなのに、顔を上げるのがためらわれる。
間違いない。
彼女は私を観察している。手を震わせながら封筒を見つめている私を。
2/26/2024, 11:14:23 PM