イオリ

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1/28/2024, 12:06:44 AM

優しさ

 自宅療養中の恩師を訪ねた。

 見舞いの花を窓辺に飾っていると、暖かいだろう、彼が笑顔でいった。緑の山々から顔を出した日の光が、部屋中に広がる。そうですね、と僕はいった。

 数カ月後、再び訪ねた。体の方はまずまずと言っていたが、表情が少し暗かった。

 大したことじゃないんだがね、といって窓を指さした。

 冬だから仕方がないんだが、どうしても日が昇るのが遅くてね。

 前と同じ時刻だったが、確かに日差しは弱かった。

 残念ですね、と僕はいった。

 
 その日の午後、関係各所に連絡し、一晩で山をすべて削り取った。

 日差しは早く届くだろう。暖かいと感じてくれるかどうかはわからない、あとでそう思った。
 
 
 

1/26/2024, 11:14:51 PM

ミッドナイト

 漫然と毎日を過ごしていると感じたから、何か変化が必要だと思った。遠くへ引っ越すのが一番だが、そう簡単にはいかない。それにそこまでじゃなくても、小さな変化で構わない。

 例えば、一日の始まり。ずっと朝だと決めつけていたけど、日付けとしては午前零時が始まりだ。自分の始まりも午前零時にしてみたらどうだろうか。

 一日の始まりが寝ることから始まるっていうのは、ちょっとおかしいかもしれない。でも、寝起きの体に今日も頑張ろうって活を入れるより、もう頑張ってる最中だって思ったほうが早起きできそうな気がする。

 こんな小さな変化でいい。結局は自分の意識の捉え方次第。寝ているときも僕は頑張ってる。うん、頑張り屋さんだ。

 

1/25/2024, 10:19:06 PM

安心と不安

 彼女ができた。同僚だ。

 以外と言ってはなんだが、料理が上手だった。一緒に住むようになってから、朝晩、欠かさず作ってくれる。

 食卓にちゃんとした料理があることが、こんなにも心を穏やかにしてくれるとは知らなかった。

 そしてとにかく美味しい。

 ハンバーグは粗挽きの肉で、牛タンの挽肉も入っているらしく、食感が良い。パクパク、パクパク。
 
 カレーライスにはいつもコロッケがついている。衣にルーをひたして食べるのが最高だ。パクパク、パクパク。

 なんと彼女は、ラーメンも作れる。休日の朝はスープの仕込みで始まる。背脂たっぷりの豚骨だ。チャーシューと味付け卵も載っている。パクパク、パクパク。

 実はスイーツの方が得意だそうだ。ショートケーキはもちろん、モンブランもティラミスも作れるし、みたらし団子や太福などの和菓子も上手だ。今日のプリンとあんみつもとっても甘くて絶品だ。パクパク、パクパク。
 
 
 結婚しよう、僕からいった。はい、と彼女は答えた。
 でも、最近ちょっと太ってきたから気をつけてね、と付け加えられた。

 そう言えば、毎月、服のサイズが合わなくなった気がする。ちゃんと気をつけないとな。

 

 メッセージが通知された。彼女からだ。
 
 今夜は、スパゲッティの上にタルタルソースがたっぷりかかったチキン南蛮添えのスペシャルメニューらしい。頑張って作ってくれたんだろうな。

 帰り道にあるアイスクリーム屋でデザートを買っていこう。バニラとチョコとミントの三つ載せ。いつものお礼に。
 
 

1/24/2024, 10:15:02 PM

逆光

 シャッターをきった。 

 デジカメなので、その場で確認した。ほら、やっぱり。彼女が残念な声を出す。

 じゃあもう一度、といって再び撮影する。が、また同じ声が漏れた。

 綺麗なシルエットだ。だが、表情がみえない。

 逆光のせいだ、とふたりの位置を入れ替えた。シャッターをきる。

 結果は同じだった。

 どうしても顔だけが写らない。

 おかしいでしょ。水面も鏡もだめなの。女のあやかしものがいう。

 以前、わたしどんな顔、と訊かれて、美人だと答えた。それ以来、どうしても自分の顔が見たいらしい。

 ずっと自分のことが見えないとね、他の人も私のこと見えないかもって思いはじめるの。そう言われた。


 とりあえずもう少し付き合ってみよう。今のところ、僕には見えている。

1/23/2024, 9:45:36 PM

こんな夢を見た

 自室には鉢植えの観葉植物が三つある。そのうちのひとつがダニアだ。

 やや厚みのある濃緑色の葉で、葉脈に白色の筋が流れている。緑と白の縞々が美しい。夏頃に、株の頂部に黄色い花を咲かす。

 細かな品種の違いはあるが、我が家の品種は、ブラジル産だ。つまり、もともと暑い地方の生まれなのだ。耐寒性は、ないにひとしい。

 残念ながら私の住んでいる地域は、冬はなかなかに厳しい寒さだ。どうしても枯れてしまう。このまま育てるべきか、あきらめるべきか、夢に出るほど悩んだ。

 なあ、どうしたい。どうして欲しい。

 夢の中でダニアに訊いたが、茶色に枯れ始めた葉を揺らしてもくれなかった。


 ひと月様子を見たが、枯れは止まらず。処分した。

 合わない気候で、ずっと無理をさせていたのだろうか。綺麗な葉を見て、喜んでいただけの自分が、嫌になる。

 

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