明日、もし晴れたら、君と散歩をしよう。
君の足がなくても、僕が手を貸すから。
君の目がなくても、僕が情景を伝えるから。
君の声がなくても、僕がたくさん話すから。
君の元気がなくても、僕の元気を分けるから。
君の体温が低くても、僕が温もりを分けるから。
「ね、明日は外に出ようよ」
心の中の、君が言う。
寝たきりの僕に向かって、君が言う。
僕がかつて君に言った言葉をそのまま、君が言う。
「なんで死んだんだよ」
薄暗い病室でひとり、可憐な少女が写る写真を握りしめて、言葉が落ちた。
子供の頃は良かった。
うちの祖母はそう言った。
世間のしがらみに囚われず、素直に人の言うことを認められる子供は良い。そして、それは大人になると途端に難しくなることなのだと教えてくれた。
大人の付き合い、とはよく言ったもので、祖母はたまに、友人と会話する時とは違う声音で電話口に向かっている時がある。
後で聞くと、会社のきらいなひと、と言っていた。
それから僕の頭を撫でて、子供はいいわね、と溢した。
みんなに対して元気が良くて、素直で、従順で、可愛くて。
私もそうなりたい、祖母は、少し悲しそうな顔で呟いた。
梅雨は嫌いだ。
髪が、湿気でぼさぼさになるから。
朝に頑張ってセットをしても、家を出たら、ぼん!
途端にやる気がなくなって、どうしようもない。
それに翌日の朝に準備する気力がなくなるのだ。
だから私は、じめじめの梅雨が嫌いだ。
「また明日」
そう言って別れた帰り道、君は事故に遭った。
横断歩道を渡っていたところ、飲酒運転のトラックに突っ込まれたそうだ。
集中治療室に入った君の「生」を示すのは波打つ電子版だけ。
また明日、会えても君に意識がないと意味ないだろ。
ひとりで呟いても、いつも返ってくるはずの声はなかった。
理想のあなた、いや、理想の私はすごいぞ!
理想の中だから、小説みたいに要素もりもりなんだ。
多分、気持ち悪いぐらいに。
まず詰まらず言葉が出せて、友達がたくさんいて、ちゃんと夢を叶えてる。
ほら、すごい!
夢のまた夢、そのさらに夢のはなし。