「青い鳥」という童話。
お金持ちを羨む兄妹が、魔法使いに頼まれて、
青い鳥を探しに旅に出るのだが見つからず、
実は家にいた自分たちのハトがそれだった。
詳しくは知らなかったのだけど、
幸せは、意外と自分の近くにある、という
話なのかな、と思った覚えがある。
私が幸せを実感したのは、そう遠い昔の事では
ない。
病気をして、人並みの生活が出来なくなって
それでも少しずつ良くなってきて、感情が湧き、
人らしい生活に戻ってきた頃、
眠れて、食べられて、動ける。これが本当に幸せ
だ、とはっきり思った。
これほど強く思った事は、後にも先にも無い。
通院は、まだ続いているけれど、それから悪化
することも無く、ずっと人らしい生活を送って
いる。
私は今、幸せだ。
「旅路の果てに」
好意はあった。
でも、好きにはなれなかった。
「好きって言って。」と言われたけれど
言えなかった。
ごめんね。嫌いじゃないんだよ。
ただ、自分に、あなたに、嘘は
つけなかったんだ。
あなたの気持ちには応えられなかったけど
いやとか嫌いとかじゃなかったんだよ。
それだけは伝えたい。
「あなたに届けたい」
本やコミックスを読んでいると、
また読み返したくなる文章やシーンに
出会う時がある。
時折りページをめくっては、泣いたり
笑ったり。愛読というやつだろうか。
いなくなった飼い猫をやっと見つけた
飼い主の号泣シーン。「私の可愛い子…」と。
探偵の助手が、その相手はヤバいから
手を出すなよ!と探偵から言われ、
じゃあ足ならいいのでは?と蹴り上げ、
「とんちやってんじゃねえんだぞ!
学の無い一休さんか!」と。
今でも笑ってしまう。
心の病気を抱える芸人が、苦しみの中、
大泣きしながら何とか仕事に行き、
その日の夜中に、相方から来たFAX。
「簡単なことはするな。つまらないから、
俺もそれはしない」
自死という言葉を使わなかった相方の優しさに
それまでとは明らかに違う涙を流した。と
記されている。
人の心を揺さぶるのは難しい。
何気ない言葉でも、自分の中に残るというのは
とてもすごい事だ。
また、そういう文章やシーンに出会いたいと
思う。
「I LOVE…」
未曾有のウイルスが蔓延して、
私達の生活は一変した。
外出自粛を余儀なくされて、
人は街からいなくなった。
ニュースで見る街並みは異様だった。
仕事に学校、買い物さえも、
どうしても外出しなければ
いけない人達を、
時間短縮の営業に追い込まれた店舗を、
いわゆる「自粛警察」といわれる輩が
非難して、本物の警察が出動した。
そんな風に街は変わった。
今は、行動規制も無くなり、
街は、元の姿に戻って来ている。
駅前も商店街も観光地も、
これまでの時間を取り戻すかのように、
活気にあふれている。
未だ終息のきざしが見えない世の中でも、
人は、街に戻りたいんだ。
「街に出よう!」
何も気にせず出かけられるようになる事、
心から、願っている。
「街へ」
あの人は、優しい人だった。
いつも、私の取り留めのない
話を聞いてくれたし、
私には、男言葉を使わなかった。
食事も、イベントも、
時には、サプライズプレゼントも。
だから、ずいぶん良い気持ちでいたし、
たくさん甘えさせてもらったと思う。
いろんなイベントに喜ぶ私を、
あの人は、嬉しそうに見ていた。
けれど、私はどうだっただろうか。
あの人が優しくしてくれるのと同じくらい、
優しさを返していただろうか。
もちろん、そのつもりだったけど、
それは、相手が満足するくらいの
ものだっただろうか。
「また連絡するよ。」を最後に、
私達は会わなくなった。
あの人が、どういう思いで言ったのか、
それは分からない。だけど、仕事が
本格的に忙しくなってきたら、それで
その先は、もう想像できなくなったくらい
もろい繋がりになっていたのを、私は、
もしかしたらあの人も感じていたから、
それ以来、私達はなんとなく、
会うことが無くなった。
きちんと終わりの台詞を言わなかったのは、
私を傷つけたくないという
あの人の優しさだろうか。
そして「いつなの?」と聞かなかったのは、
仕事に忙殺されていく姿に、
邪魔してはいけないと思った、
私の優しさだったのだろうか。
「優しさ」