夢見 月兎

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4/21/2025, 9:50:25 AM

#星明かり

図書室にいたらすっかり日が落ちてしまった。冬も終わるというのにまだまだこの時間は暗い。
日が落ちてからこの道を通るのは何回目になるんだろう。あと何回あるんだろう。隣を歩く頭一つ分小さな彼女の横顔を盗み見た。
「まだ暗いし、早めに帰った方が良いんじゃないかな」
「あら、付き合うの嫌になっちゃった?」
「そうじゃないけど、この辺は街灯も少なくて危ないでしょ」
「一緒に帰ってるんだから大丈夫よ。後もうちょっとなの」
「いけそう?」
「ええ、今のペースなら図書室の本を読破できそう。遅くまで開けてくれる貴方のおかげよ」
「すごいのはキミさ」
博識で成績優秀。本当なら僕なんか会話もすることがなかったのに。あの時、じゃんけんで負けて図書委員になったのはなんて運が悪いんだろうと落ち込んだけど、とんだ幸運だったんだ。
輝く一等星をこんなに近くで見られた。それだけで、十分――

「星が綺麗ね」

ぽつりと脈絡もなくキミが言った。いつかの日、キミとの会話を思い出して震える唇で言葉を紡ぐ。
「手が届かないから、綺麗なんだよ」
「星は手に収まりたいって思ってるかもしれないわよ?」
「えっ」
からかうような笑みを浮かべたキミ。その顔が真っ赤に染まっているのを星あかりが教えてくれた。

【手を伸ばしてと星が瞬いた】

7/24/2024, 9:20:38 AM

#花咲いて

6/14/2024, 9:43:33 AM

#あじさい

6/1/2024, 9:59:11 AM

#無垢

「はやくー! こっち来てよ!!」
 白いワンピースを翻しながらネモフィラの中をかけて行く君。いつも無邪気に笑って、自由で。
「待ってよ、そんなに走ったら転んじゃうよ」
「大丈夫、大丈夫ーっ、あ」
 ずべしゃっ! 例えるならそんな音で盛大に転けた。
「ほら、言わんこっちゃない」と、僕は駆け寄って手を差し出した。
「ありがとう」
 照れ臭そうに笑いながらお礼を言う君は、汚れてもなお輝いている。
「泥が付いちゃったね……」
「このくらい大丈夫よ。洗えば落ちるわ」
 前向きな君が眩しくて、ふとしたときに、後ろめたさを覚えるんだ。それでも手放せない僕をどうかゆるさないで。

 優しい人。疑うことを知らない人。――カワイイ人。
 私、貴方が思うような子じゃないのよ。でも、こういうのが好きなんでしょ? 貴方の気が引けるなら、わざと転ぶくらいなんでもないの。だからね、愛しい人。そのままずっと騙されていてね。


【無垢なあなたを愛してる】

5/26/2024, 3:06:08 AM

#降り止まない雨

 何時間経っただろう。いや。本当は十数分かもしれないけれど。時間感覚がぼやけて分からなかった。
 天からのシャワーは水量を変えずに降り注いでいる。髪も服もこれ以上ないくらい水分を含んで体に張り付き、体もすっかり冷え込んでいた。
 あなたに会ったのもこんなひどい雨の日だった。ただひたすらに雨に打たれていた私へ、そっと傘を差し出して水を止めてくれた。
 ――いつもあなたが晴れを連れてきてくれたのに。
 動きづらい体を無理矢理に動かして冷たい石を抱き締める。今日の雨はやけに塩辛かった。


【お願い太陽、顔見せて。それが無理なら連れてって】

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