夢見 月兎

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#星明かり

図書室にいたらすっかり日が落ちてしまった。冬も終わるというのにまだまだこの時間は暗い。
日が落ちてからこの道を通るのは何回目になるんだろう。あと何回あるんだろう。隣を歩く頭一つ分小さな彼女の横顔を盗み見た。
「まだ暗いし、早めに帰った方が良いんじゃないかな」
「あら、付き合うの嫌になっちゃった?」
「そうじゃないけど、この辺は街灯も少なくて危ないでしょ」
「一緒に帰ってるんだから大丈夫よ。後もうちょっとなの」
「いけそう?」
「ええ、今のペースなら図書室の本を読破できそう。遅くまで開けてくれる貴方のおかげよ」
「すごいのはキミさ」
博識で成績優秀。本当なら僕なんか会話もすることがなかったのに。あの時、じゃんけんで負けて図書委員になったのはなんて運が悪いんだろうと落ち込んだけど、とんだ幸運だったんだ。
輝く一等星をこんなに近くで見られた。それだけで、十分――

「星が綺麗ね」

ぽつりと脈絡もなくキミが言った。いつかの日、キミとの会話を思い出して震える唇で言葉を紡ぐ。
「手が届かないから、綺麗なんだよ」
「星は手に収まりたいって思ってるかもしれないわよ?」
「えっ」
からかうような笑みを浮かべたキミ。その顔が真っ赤に染まっているのを星あかりが教えてくれた。

【手を伸ばしてと星が瞬いた】

4/21/2025, 9:50:25 AM